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納税者と税理士の紛争事例から学ぶ

第55回 租税特別措置法の納税猶予は免税ではなく不確実性があるので損害はないとされた例

2019年7月8日

(ストーリー) 

 農業相続人が納税猶予の申請を依頼した相続税申告で税理士は適切な納税猶予を受ける書類の提出を怠ったため免除されるはずの相続税額1億4623万円その他の金額を税理士に対し損害賠償請求をしました。

 

 

(双方の主張)

依頼者:適格者証明書を添付しさえすれば納税猶予措置を受けることができた。

 

税理士:書面を添付すれば要件を充足するのではなく実体が法の要件に適合しなければならない。依頼者が農業を死ぬまでしていたことにはならないこと、生計が一ではないことのほか、本件土地は「農地」の要件に該当しないから実体要件に欠ける相続税が免除されることを前提として相続税額を損害額という訴えには理由はない。

 

(結 末)

・死亡の日まで農業を営んでいなかったものの既往において相当期間農業を営んでおり生計も一と認められる。土地も「農地」と認

 められる。これらから申告書に適切な書類の添付があれば納税猶予措置の適用を受けることができた可能性は高かったと思われ

 る。

・しかし租税特別措置法の規定では依頼人が耕作地の2割以上を譲渡したり第3者の権利(永小作権、地上権、賃借権など)を設定し

 たり農業経営を廃止したりした場合には納税猶予は停止され相続税の納税をしなければならない。この農地所在地の市街化の早さ

 を見れば納税猶予を受けたとしてもそれを停止される確率は高いと言える。ゆえに相続税相当額を損害であるとする依頼者の主張

 は認められない。

・納税猶予を受けられなかった精神的苦痛に対し慰謝料100万円(訴えた請求額は1千万円)と弁護士費用10万円(請求額1000万

 円)の支払を相当とした。

 

(ポイント)

 税理士に添付書類の不備があったものの、租税特別措置法の納税猶予制度は免税になるのではなく一定期間猶予して様子を見て、要件に欠けるなら納税猶予を停止し、即納税しなければならない仕組である。川を渡りきるまで要件が欠けなければ最終的に免税であるが、川を渡るまで何が起こるか分からない不確実性があるので本件は不確実性が高く「損害」には当たらないと結論づけられた。不確実性に税理士は救われたとも思われる。

 

参考:tains Z999-0097

第56回 代償分割での時価と路線価評価の乖離による税負担の差額は損害に該当しない

2019年7月9日

(ストーリー)

 相続人4名は相続税申告につき税理士に依頼しましたが、先妻の子である依頼者は、税理士が後妻とその子2名を特に有利にするよう要望されたため、相続人4人全員を平等に取り扱うべきところ忠実義務に反し依頼者を不利に扱ったと主張しました。

 具体的には代償分割に際し土地の実勢価格をもとに代償金債務を算定したが、実勢価格によらないで路線価によって代償金債務を算定すれば少ない金額になるところ、差額1億1647万円は理由なく負担する代償債務であることのほか、相続によって取得した土地の路線価評価額から代償金支払額を控除して相続税額を計算すべきところ、それをしなかったため税負担が1億3888万円過大になる損害を蒙ったと1億3888万円の賠償を税理士に求めて訴えました。

 

(双方の主張)

依頼者:(上記ストーリーの通り)

 

税理士

・未分割での相続税申告書は作成したが、その後の遺産分割協議書の作成には関与していない。代償金の計算のみ行った。

・他の相続人の相続税も依頼者が支払う取決めになっていたとしても、相続税の総額は分割方法によって変わるものではないから仮

 に依頼者が負担する相続税額を低額にしても、その分だけ他の相続人が払う相続税が増加することになり、この金額も依頼者が支

 払うだけで全体の負担額は微動だにしない。結局のところ損害は与えていない。   

 

(結 末)

・税理士が遺産分割を主導し他の相続人に有利に計らった証拠はない。

代償金を実勢価格によって決めることは実態に沿うとともに、税負担には影響しない。

代償分割にて不動産を取得して換価し代償金を支払う立場は不動産を高額に売却できれば売却益を取得できるのであるから依頼者

 の立場は不利益とは言えない。

相続税評価額と実勢価額が乖離している場合には代償財産の価額(時価)を相続評価までスライドして代償債務を圧縮すること(相

 続税基本通達11の2-10:木村注)が認められているから代償債務が殊更膨れ上がったとは言えない。

 

(ポイント)

・依頼者は実の母が早世した後に来られた後妻を実の母と誤認して育った。税理士は公平に業務を遂行したと思われるのに不公平

 感情から税理士を訴え最高裁で不受理になるまで争った。

・動機は2点ある。1は代償分割で代償金を多く払わされたと考えたこと。2は多く払わされた代償金を路線価での評価額から控除

 すれば自分が負担する相続税額はもっと安くなったとの思いからと考えられる。

・背後には不動産価格の崩壊による時価と路線価の乖離現象があるが上述の通り相続人間の損得はない。

むしろこのような裁判をしなくても良いように税理士は十二分に相続税法の計算構造や基本通達の特例をかみ砕いて相続人に説明することが重要な役目と思う。

 

参考:tains Z999-0114,0115,0117

第57回 相続評価についての見解の相違、結果は損害なしとの結末

2019年7月10日

(ストーリー)

 相続税申告に際して税理士は「容積率の異なる2以上の地域に亘る宅地評価」と「都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価」を適用しないで評価したため過大評価になり相続税額も過大に納めさせることになりました。適用洩れに気づいた税理士は減額の嘆願書を提出しました。この結果相続税額は減少しましたが相続した土地を売却した長期譲渡所得に対する税額は譲渡原価が減少したため増額の結果になりました。このほかに駐車場が貸家建付地であることも嘆願していない点に依頼者は不満であり争いになりました。

 

(双方の主張)

依頼者:最小限の税額になるよう努力すべきであるのに怠った。過大評価分が原因の相続税、譲渡所得

    税を支払え。

税理士:・容積率の定めも、都市計画道路の定めも、ともに申告当時は通達ではなかったので税理士と

     して適用義務はない。

    ・貸家建付地については税務署からは自用地であると指摘があり見解の相違があり依頼者にそ

     の旨伝えたところ納得した。

 

(結 末)

・現地の道路の幅や接続の状況、利用状況からは評価を減額すべき点はない。したがって損害も与えて

 いない。

貸家立付地ではなく自用地が正しい。このことを税務署に主張しなかったとしても貸家建付地として

 評価はできないのであるから訴えに理由はない。

税理士は基本通達のみの調査でその責任を免れる道理はないものの、嘆願により容積率や都市計画道

 路の定めに沿って是正されており損害は生じていない。

 

(ポイント)

 相続税の総額10億円、納税額5億円の「大きな相続」において評価をとことん減額できたか否かで負担税額は大きくぶれることから紛争になりやすい。申告までに法令通達はもとよりその他の情報や裁決例、判例にもあたる必要があるが依頼のタイミングで時間が取れない場合もある。

 当時は更正の請求期限は1年であったので嘆願しか方法はなかったが現在は申告期限から5年間可能なので後からでも依頼者との了解のモト更正の請求をすることは必要と思う。

 

参考:tains Z999-0088

第58回 伝票チェックと決算申告だけしておれば消費税の届出の助言をしなくても責任なし、?の事例

2019年7月11日

(ストーリー)

 それまで消費税が免税であった貸ビル会社は旧ビルを取り壊して新ビルを建てましたが、顧問の公認会計士は課税事業者選択届出書を税務署に提出しなかったため消費税の還付を受けられなかったとして会計士に債務不履行による損害賠償を求めました。

 

(双方の主張)

依頼社:1~3月ごとに振替伝票、工事代金領収書などを渡していたからビル新築工事に着手したことは認識できるはずである。決算

     書に建設仮勘定が設けられていることでも新ビルの工事を知っていたはずである。

 

会計士:ビルの新築は知らなかった。ビル新築を知らされたのは決算作業中であった。顧問契約の中味は決算処理と確定申告に限定

    されていたので消費税は関知しない。

 

(結 末)

 証人の依頼社事務員や会計士本人への尋問によると会社とのやり取りは訪問または郵送による会計伝票の受取りとこれに基づく決算書申告書の作成だけであった。依頼社の税務全般までを業務範囲に入れたものではない。

 課税事業者選択届出書を提出するか否かの判断は依頼者に委ねられているもので顧問会計士が決めることではない。建設資料を提供して選択の相談を受けた場合ならともかく、決算申告だけの契約のもとでは会計士から進んで課税事業者にあることを指示するまでの義務はない。貸しビル業者であれば自社の消費税法上の位置を知り税務知識を持つことが普通であるから殊更専門家に助言を求めるものではない。依頼社の主張は当たらない。会計士に債務不履行はない。

 

(ポイント)

 依頼社の経理軽視で折角専門家と契約していながら伝票チェックと決算申告だけを任せてそのほかの相談も積極的にしていない。会計士も月々の経理の世話だけで踏み込んだ助言はしていない。双方のコミュニケーション不足が原因である。

 会計士側が少なくとも決算書で「建設仮勘定」を計上しておきながらビルの工事のことを知らない、と言い切る点は疑問である。決算の過程で新築の事実を知ったものの届出は手遅れのため不知を装ったと推測されるが、求められる業務水準からいえば会計士の助言ミスではないか。とくに消費税のことで相談しない限り免責であるとの判示は理解に苦しむ。不思議な判例である。こんな会計士と顧問契約していたら事業者はスピードある事業展開などできない。

 

参考:tains Z999-0069

第59回 事業者は基本的知識として消費税知識をもつべきであり、なんでも税理士の責任にしてはならない

2019年7月12日

(ストーリー)

 設立以来消費税の課税売上高が1千万円未満であったので免税事業者であるところ、急に多額の広告宣伝費を支出したことで課税事業者であったなら3357万円の還付金を得られたのを逸失したとして弁護士費用330万円を加えて依頼社が税理士に賠償金の請求を求めて訴えたケースです。

 要するに税理士が課税事業者選択届出書の提出義務があるのにそれをしなかったかが争点です。

顧問契約に際し税理士は顧問料の額について月額10万円ないし5万円の提案をしましたが高いとの理由によって2万円で契約しています。この経過が、税理士は積極的に助言する義務があったか、受動的な姿勢で良いとの姿勢の幅について見解の相違になり紛争の論点になっています。

 

(双方の主張)

依頼社:

・課税事業者選択届出制度のことは知らない。当社から相談を持ちかけなくても税理士は顧問契約で助言をすることは義務付けられている。

・顧問契約で「税理士法に定める業務」と謳ってあるように税務相談、税務書類の作成が具体的業務範囲であるが、課税事業者選択届出書の作成・提出はこの両業務に該当する。

・顧問料が2万円になったのは定期訪問をなくし問題が起こった場合はオプション料金を定めたためであり、会社側から電話で相談があった時だけ応じるほかは何もしないという受け身の契約をしたのではない。

 

税理士

・契約書には「定期訪問なし。税務上の問題につきましては、お電話にてお問い合わせ下さい」と記載されている。この意味は助言のための情報収集はしないという意味である。依頼社が課税事業者になったほうが有利であると認識する材料も情報もなかったから敢えて選択届出について助言する義務はない。現にこの件で一切の相談は受けていない。

・依頼社が低額顧問料での契約をしたことは税務リスクを自ら負担することを自覚していたと考える。

・事業開始申告書などを自ら届出し、税務調査にも自力で対応していることや経理責任者は銀行本店上席調査役であり相当程度の税務知識を有していたと認識できるうえ選択届出書提出の知識は通常の事業者であれば基本的に持っているものである。さらに所轄税務署から課税事業者選択届出書を提出すれば還付を受けることができるとの説明書面も送られており知識に欠けるとは考えられない。

・支出増の原因である広告宣伝費がそれまで2千万円程度であったものが4億円になったことは知りえない。決算データで知ったが時機を逸している。

 

(結 末)

・契約では税理士に助言義務はないから助言を怠ったゆえの債務不履行責任はない。

・提出期限までに広告宣伝費が急増することを税理士は知らなかったのであるから届出書について注意喚起する義務はない。

 

(ポイント)

 銀行出身の経理責任者を入れ、税務軽視ないし蔑視からか税理士顧問料を値切りに値切ったことが自分に跳ね返ってきた。オマエが悪いと税理士の面前で、あるいはコイツに非があると裁判所で、税理士を指弾するその手の下3本の指はつねに己自身を指していることを知らねばならない。税理士は無形のサービス業である。「値切る」ことは頭の先から鉈でチョン切ることをするに等しい。自業自得と言うほかはない(笑)

 

参考:tainz Z999-0135

第60回 土地の譲渡があった場合に個別対応方式で消費税計算をしなかったことで損害賠償請求

2019年7月16日

(ストーリー)

 消費税の課税売上割合が95%以上である建設会社について、消費税法30条<仕入控除>が改正されたことで、これまで同様に全額控除ができず個別対応・比例配分の選択が必要になったにもかかわらず税理士は依頼社に説明・問合せをすることなく比例配分方式で消費税申告をしました。

 この選択は重要で、一旦比例配分を選べば以後2年間はこの方式に縛られ、個別対応方式を選択することはできません。

建設会社であるため土地の売却などがあれば年度によって大きく課税売上高が変動する特性がありました。たまたま21億円の不動産の売却があったため比例配分方式で(個別対応方式を選択した場合に比べ)多額の消費税負担を強いられたうえ、翌事業年度も比例配分方式での計算を余儀なくされ2年間過大消費税額の納付をする損害を蒙ったとして税理士を訴えました。

 

(双方の主張)

依頼社:非課税売上である土地売却があり課税売上割合が大きく下落する年度は連動して控除税額が少なくなるため個別対応に比べて過大な納税になったのは税理士が翌年度の取引の見込みも含めて比例配分の危険性を説明する義務があったのに怠ったことに由来する。そればかりか不動産取引の有無すら問い合わせず、個別・比例の計算の説明もなかった。

 

税理士:12年申告時に13年に不動産の売却をすることの認識は不可能であった。12年の課税売上割合は95%をわずかに下回っただけであった。個別対応方式になれば膨大な作業が必要である。

 

(結 末)

・税理士には両方式の選択次第で納付消費税額が大きく変わる可能性を説明すべき契約上の義務があったのに不動産売却の事実の問

 い合わせすらしなかつたのは過失である。

・税理士の事務を軽減するため簡便な方式を選択したとしてもその理由を依頼社に説明すべきである。

・整理回収機構との不動産の任意売却の交渉に税理士は当たっていたから依頼社の資産状況を把握できていた。そのため依頼社から

 報告がなくても不動産売却の可能性は認識できた。不動産売却を予測できないから契約上の義務違反はないとの言分には理由は

 ない。

依頼社のほうも現実に不動産を売却した後に税理士と会った際、売却の事実を報告しなかったばかりか「うちの不動産を20億円で

 買ってくれるようなお客さんはいませんかねえ」とあたかも不動産がまだ売却されていないような話をしたことを考慮すると損害

 額の3割を過失相殺とするのが相当である。

 

(ポイント)

 遣り取りからみえることは税理士への不信である。不動産が売れているのにまだ売れていないような会話をする背景がよくわからない。税理士も手間がかかる個別対応を避けたかったようであるが手間がかかるのなら費用を請求することで補うこともできるのではないか。膨大な作業が必要との抗弁には疑問である。

 

参考:tains Z999-0099

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