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事業家Qが読み解く現状と先行き

第1回 事業家Q氏が読み解く現状と先行き1

2019年10月17日

はじめに

今回からのシリーズは単調さをなくするため、カタチを変えてモデルの人物を登場させ、彼が事業の改良、或いは整理、のどちらの道にたどり着くかの道行きを物語にして解説したいと思います。右へ行くか左に行くかの分かれ道では、税法や会計の言葉が出てきます。なるべく容易な表現を心がけます。税法の規定が意思決定の鍵になる場面もあることを汲み取っていただければ有難いです。

 

また叙述の文体も変えました。

 

今日は初日ですので書きませんが、回を重ねるとともに、忘却を防ぐためキーワードを文末に掲げます。なお登場する事業家Q氏は筆者の創作した人物です。実在しません。Qのお父さんが満州から帰ってきたことも創作です。

 

語られる出来事は満州から歩いて帰ったこと、自殺、破産などは筆者がまわりで見聞きした事実ばかりです。織り込まれている素材は決して架空の話ではありません

 

ところで満州国という植民地国家の最終段階に起こったことは、官僚国家であるこの国の近未来に相通じるものが多くあると考えています。瓦解のプロセスを知ることは重要です。

 

瓦解の事実を、飯塚浩二先生著「満蒙紀行」(昭和47年9月、筑摩書房刊)に求めました。

この本は「大東亜戦争敗色濃い昭和20年春2月、戦争終結間近しとみた筆者は、満蒙における日本帝国植民地解体を予測し、占領地・植民地行政の実情視察の意図を秘めて中国へ渡った。以来4ヵ月風雲急を告げる満州・華北・蒙疆を駆けめぐって末期的段階の植民地経営の実際を見た。本書はこの極めて特異な時期と状況下にある地域社会を非凡な着想と豊かな知識・視野に培われた眼で見た異色のレポートであり、白眉のフィールド・ノートである」(この本の帯封より)。

この書物には実際に現地で確認されたことばかりが記されています。終戦間際の満州で起こったことがこれからも現在と対比的に出てきますがすべてこの書籍からの引用です。飯塚先生の体験に基づく事実です。

 

 

 

事業家Qの身のまわり

Qは小なりといえども製造業を株式会社形態で経営している。別に個人事業として倉庫業も営む

 

同世代の経営者仲間4人で四木会(第4木曜日に集まって経営の勉強と情報交換をする会)の仲間の一人は5年前にバブル期の銀行借入金の返済に行き詰まり自殺し、会社は破産した。

 

2年前にもう一人の仲間はバブル期の借金が返せないところへ更に借金を重ねていたが、急激な売上減少のため従業員に再就職先を紹介したのち自己破産した。

 

残る一人は銀行借入残高が減らない現実を前にして、自社ビルを売却して借入金を完済するとともに会社を解散・清算したあと個人事業に縮小し自宅を事務所にしている。

 

事業家Qの父親は満州から引き揚げてきた。帰国列車に乗れず、ほとんど徒歩で満州から釜山まで来て、ようやく貨物船に乗せてもらって助かった。そのような父から繰り返し繰り返し、威張っていた高級役人や軍人がソ連軍侵攻後に兵隊や日本人居住民を置き去りにして一目散に逃げ帰ったことを聞かされた。

 

そのため国や権威のあるものを信じないこと、自分だけしか頼れないことを肝に銘じて現在に至っている。

仲間がいなくなり一人になった事業家Qは、友人たちの終末を目にして自分の事業の再点検と今後への対処を考えなければならない段階に来たと思っている。

 

今後の経済の動き、とりわけ少子化に伴う人口減がもたらす採用難や1000兆円を超える国債に示される財政赤字の存在と増税の流れのもと世間はオリンピックやミニバブルで浮かれているなか、事業家Qの心には先行きについての危機感が重くのしかかっている。

 

湿り気の多いこの国の気風のもとで、心の動きも伸びやかになることはなく、心が小さく深く沈む日々である。

そこで利益が出ている今のうちに顧問税理士のアドバイスを求めて事業の近未来の青写真を考えようと決心した。

第2回 事業家Q氏 Vs. 顧問税理士

2019年10月18日

事業家Qは早速、顧問税理士と話し合ったが大きな点で見解が対立した。

 

(借入金について)

顧問税理士:借入金は早く返さないで手許に資金の余裕を持っておくこと。銀行が貸してくれる今のうちに借りれるだけ借りておくこと。

 

事業家Q:今の関心は事業を継続する前提ではなく、やめる方向に行くか、まだしばらく継続するかであるから、継続のみを前提にした意見は受け入れられない。借入して先々事業を廃止する際に返済できず担保に提供した資産も含めて「すべてを失う」ことは避けたい。

 

(決算方針について)

顧問税理士:借入できるように少しでも良いから黒字にしましょう。少しの黒字なら納税額も少ないし差障りはないでしょう。赤字なら銀行の稟議が通りにくい。

 

事業家Q:借入する前提で話されても困る。廃業も視野に入っている。繰越欠損金を年度終了後10年間充当して納税額をゼロにできると聞いたことがある。我が社にはまだ使っていない欠損金はあるのだろうか。そのうえ「期限切れ欠損金」といって10年より前の赤字も廃業の場合は使用できるとも聞いた。

 

(決算書の中味について)

顧問税理士:これまでも銀行さんが貸してくれやすい決算書を作ってきました。社長のためにそうしました。デッドストックの在庫や回収しにくい売掛金は残してあります。黒字にしますので必要なのです。減価償却も旧式の旋盤は償却限度まで償却していません。

 

事業家Q:以前はそうかもしれないが、今は違う。貸借対照表にあるもので価値のないものは落としていただきたい。減価償却も殆ど動いていない旧式の旋盤はないも同然だから除却できるのではないのか。これでは引き締まった決算書ではなくヌルイ、言い方を変えたら贅肉だらけの決算書ではないか。

 

(事業承継税制について)

顧問税理士:贈与税の特例です。これを申請していただきますと贈与税はゼロの上、社長の相続の時も相続税が支払不要です。但し役所に計画書類を出して認定を戴く必要があるうえ、顧問税理士の所見をつける必要があります。さらに5年間は知事に「年次報告書」を、税務署長に「継続届出書」を出す必要がありますから税理士も大仕事ですから高い目の費用を戴きますね。それとこのトクな制度は10年間の限りです。急がれたら良いのでは。

 

事業家Q:事業を継ぐ者は見当たらない。赤の他人でも良いと以前に税法が改正された際に、目をかけた従業員に後継の話をしたら、その時は「やらせてもらいます」と嬉しそうに答えたものの、翌日には「ヨメがアカンいうのでお断りします。理由は借入金の連帯保証をせんならんのがネックですヮ」と言ってきた。税理士先生にはこの話したのに、、跡継ぎがないところへ事業承継の特典やて、あほらし。自分の儲け口と思うてるように見える。

 そのうえ減資した場合や資産管理会社に変わったらたちまち納税猶予は取消と聞いた。取消になれば即納税や、アブナイ、アブナイ。

 

事業家Qは満州から引き揚げた父親に聞いた昔話を思い出していた。何人もの満州人から聞かれたと。何でそのように日本人は皆さん呑気なのですか、事態は切迫していますョ。内地が酷い空襲で被災者が集団で満州に避難してきてソ連国境に近いチャムス(佳木斯)という地に送られたとか。気の毒に、終戦になったらどうなることか、、あとから思えば、現地人の情報の確かさにくらべ我々は、国が守ってくれると思い込んでいた父から国の施策に盲目的に従っていては危険で、現地人のように政府を信用しない態度の方が正解だと聞かされたことを思い出していた。

 事業承継が楽になる制度であることは理解できるが、この制度は結局アトツギさんが有利になるだけではないのか。格差が拡がるだけではないのか。政治家がアトツギさんが多いから、これは日本の現実かもしれないが税理士の説明はとても腹に落ちるものではなかった。

第3回 事業家Q Vs. 他の税理士

2019年10月21日

<先週のあらすじ>

事業家Q(架空の人物)は友人たちが借入金返済に難渋し事業を閉鎖して経営の第一線から撤退するなかで、自分の事業のソフトランディングを考えている。経営は継続できているが採用難や増税など、先々に希望が持てない実感がある。顧問税理士に相談したが納得がゆかないので他の税理士にも会ってみた。

 

<キーワード>

官僚国家、バブル期の残債、会計数字の活かし方、繰越欠損金、事業承継税制、

 

 事業家Qは顧問税理士との話に納得できない日々を過ごすうちに、ある新聞記事に接した。そこには「国内の企業数は382万社で大企業は1万1千社にすぎず、380万社に及ぶ中小企業は経産省・中小企業庁の試算では、その三分の一の127万社が令和6年までに廃業し650万人の雇用と22兆円のGDPが失われる。」さらに「70歳を超える経営者は全体の6割に当たる約245万人に達するが半数の127万人の後継者が決まっていない。」と書かれていた。

 

先日の顧問税理士との対話で、その税理士が言うことにも一理はある、自分がオカシイことを言ってしまったのかなと後から思っていたが、この記事を読んでやはり自分は例外ではなく、三分の一も廃業予備軍がいるではないか、自分は廃業を決めてはいないが見込みは半々である。迷っていることはむしろ正常なのだと気づいた。

 

 そこで以前に友人と講習会に参加した際の講師の税理士が自分と同世代のようでもあるので、会って相談してみようと考えた。比較のため顧問税理士にしたと同じ質問をしてみた。

 その税理士は、遠くから見た講演ではテンポよく話していたが、面前にて会ってみると、ぶっきらぼうで、口数も少なく、とっつきにくい雰囲気の人物であった。一瞬、話をしないでこのまま帰ろうかなと思ったがせっかく来たので話に入った。

 

(借入金について)

講師であった税理士<以下 講師税理士>:借入金は無い方が良いが実際問題そうはいかない。そこで善玉借入金と悪玉借入金を区別しましょ。善玉は借入れたお金が設備などカタチあるものなっているやつ。悪玉は資金不足で繋ぎに借りたものが累積しているやつ。

 まず悪玉を退治する。次に善玉もカタつける。カタを付けるという意味は預金などが増えてきて「実質無借金」にもってゆくことや。実質借金になるには順序がある。

 キーはキャッシュフローを良くすること。そのためにはウリ・カイの回収速度に注意する。速度とは日数や。風呂桶をイメージしなさい。湯の入る蛇口の大きさがウリの売掛金や未収入金の回収速度つまりやな日数です。払いのほうは資金が出てゆくので風呂桶の底の排水口の口径をイメージします。出る方の口径(日数)が入る蛇口の口径より大きかったら、やがて風呂の湯はなくなる。商売が風邪ひくんや。逆やったら湯があふれる。溢れるようにするのがアンタのしごとヤ。こうなったら溢れたお金を借入金の繰上返済へ回せる。資金に余裕が出るから悪玉退治はし易いね。

 

事業家Qはワカリヤスイ説明に、目からうろこが落ちる気持ちであった。

 

(決算方針について)

講師税理士:その顧問先生のおっしゃることも意味があるが、その姿勢では銀行さんに寄りかかってる。自立してない。銀行さんがオタクへの貸付債権をサービサーに安売りしたらどうなる。サービサーは厳しいよ。資金繰りを見ながら実際の決算書を良い方へ変えてゆかないと。赤字を出しても良い。

充分に金融機関と話して相手の考えを理解しないまま、思い込みで黒字決算ではよくない。

 

(決算書の中味について)

講師税理士:会計基準通りにすること。法人税法22条(新収益基準ができてから22条の2も設けられたが今は無視してよい)で公正会計基準があるからこれに逸脱する癖をつけたら(減価償却の不足は納税額に影響しないが、納税に影響する場合は税務署に指摘される)いけません。それでは会計の値打ちがなくなる。値打ちがなくなるとは、会計数字が経営の羅針盤にならないという意味です。

 

(事業承継税制)

講師税理士:あなたの会社の株式評価をして、その評価額にかかる税負担が1億円以上ならこれも検討の余地がある。そうでないなら不要です。

 

事業家Qは帰り道にこう思った。同じ税理士に慣習のように、或いは惰性で見てもらってきたけれど、惰性というのは恐ろしいと思った。それと、自分だけしか頼れない、自立せよ、と父に聞かされたが自立していないで金融機関に依存していたことにも気づかされた。

第4回 事業家Qの会社に税務署が来た!

2019年10月22日

(税務調査の事前通知

   講師税理士と会った数日後、顧問税理士から電話があり税務署が調査に入りたいとの事前通知があり4日後、午前10時開始でこの日から3日間を予定している、とのことである。その日午前中は重要な得意先に滞留している売掛金の回収交渉の日で、のらりくらりと逃げ回る相手先社長にやっとこの日を約束させた、こちらからは変更できない、もしそうしたら相手に借りを作ることになり回収計画が頓挫しかねない。

   悪いことにその翌日の調査二日目は銀行の支店長に借入金の返済額の変更を御願いに行く日である。条件変更を申し入れていたが、煮え切らない融資担当者ではなく権限のある支店長に面談を申込んでいたところ、やっとこの日が確保できた。ここも強硬に申し入れて日程を取ってもらったいきさつから、今更日程変更を申し入れることはこちらの立場を極端に弱くしてしまう。「何で急に4日後なのか!

Qは困り果てた。

 

 

(思い切って自分で税務署に掛け合う)

   困った事業家Qは顧問税理士に日程の変更ができないか電話してみた。顧問税理士は「税務署が決めてきた日程は変更できない。そんなことをしたら税務署の機嫌を損ねる、アンタが悪いこと(脱税)をしていると見られかねない。ここは税務署のいうままにしたほうが無難である」と上ずった不機嫌な口調でQに言った。

 

Qは「税務署の機嫌を損ねる逆らったら「アンタが疑われる」の部分がカチンときた。内心、最近会った講師税理士に相談することも考えたが、ことは急ぐので「先生、もう宜しいヮ、自分で税務署に電話して掛けあってみます。」と言って電話を切った。顧問税理士が一瞬、息を呑む空気が受話器にまでハッキリ伝わってきた。

 

税務署の綺麗な感じの良い、鈴が鳴るような交換手の声に意外性を感じながら、顧問税理士から聞いた調査官の氏名を伝えたところ、ちょうどその調査官が在席していて話が出来た。「こうこうの理由でご予定日の前2日は差支えますので何とかしていただけませんでしょうか?」と。

 

(その結果は、、)

  調査官は落ち着いた声で「良いですよ。最初の二日がダメなら一ヶ月後の同じ日でどうですか?実は3日と申しあげましたが最初の2日が重要で、Q社長の会社の経理がキチンとできておれば3日目は調査を切り上げることもあり得ます。なのでこちらも2日は確実に確保したいし、あとの1日は連続した日でなくとも飛ばした日でも良いのですよ」

 

事業家Qはいささか拍子抜けしたが、喜んでこの調査官の提示した日程を受け入れた。例え相手が税理士であっても、その言葉を鵜呑みにしないでよかっと思った。その時「他人に依存することなく体当たりで行けば道は開ける」と言っていた父親の姿が目に浮かび、少し涙ぐみながらその通りだと思って電話を切った

 

<次回の予告とキーワード>

税務調査の顛末、厳しく指摘された点と修正申告勧奨、減価償却不足額の扱いと損金経理、修正申告で利益が増えたと喜ぶ顧問税理士、追徴税額の納税>

第5回 事業家Qの会社に税務署が来た-2

2019年10月23日

それから税務調査の日まで、事業家Qは顧問税理士とともに過去3年間の会計帳簿や領収書などの証憑書類、議事録・契約書のファイルなどにモレがないか再確認した。

 

顧問税理士はアドバイスしなかったが、同業者から受注→製造指図書→製品別原価集計表→完成確認書→納品書・出荷案内→検収確認書→請求書までの事務フローを流れ図にして作成したことが税務調査で非常に役立ったと聞いていたので、税理士が打ち合わせを終わって帰った後にQは自分で自社の流れ図をエクセルで作成してみた。自分でも意外であったのはその一葉の図があると自社の工程が一目でイメージできることであった。

 

調査の当日、調査官は約束の10時AMきっかりに来社した。直ぐに首にかけていた身分証明書をQと税理士に示して自分の名を名乗った。身分証明書には調査官の生年月日も書かれていた。電話での応対と同じようにソフトな感じであったが見かけより結構年齢が行っていて意外な感じがした。顧問税理士も税理士証票を調査官に示して自分の名を伝えている。Qは名刺を出して名乗った。

 

調査官から「すでに顧問先生を経由して調査の目的対象税目は法人税と源泉所得税、印紙税であることをお伝えしていますがよろしいですね、社長。それと個人の所得税申告も必要に応じて調べることはあります。」と説明されたが、Qは顧問税理士から単に調査があるとしか聞いていなかったので意外な感じがしたが、このことには触れずに「結構です」と応じた。

 

調査官は最近の貴社の状況はどうですか、主要な機械設備はどんな名前ですかとか、どんな経緯で会社を始めましたかとか尋ねながらその視線は会社の事務室をたすき掛けに行き来している。その後、工場と倉庫を拝見できますかと言われたので、工場には受注先の戦略製品の仕掛品があることや、倉庫が整頓されていないこともあって、できたら勘弁してほしいとの眼で顧問税理士を見た。

 

これまでも無言であった税理士は「ではそうしましょう」と早くも腰を浮かせて調査官を工場に先導するかの様子を示したので、Qは納得がゆかずイスに座ったままでいたところ、空気を察した調査官のほうから「我々には法律で守秘義務が求められていますから調査の過程で見たことなどは漏らされませんのでご心配なく」と言って微笑んだ。税理士も「そうです!そうです!」とオウム返しのように言ったので、事業家Qは調査官が急に二人になったような気がした。しかたなくQも同行して工場などを案内した。

 

工場と倉庫の臨場から戻った調査官は製造物の見本と事務の流れが分かる資料を拝見させてくださいと伝えたので応じた。Qが差し出した事務フローを見ながら調査官は、これはよくできていますね、顧問税理士先生のところで作られたのですかと言ったのでQは「違います。私が作りました」と少し力を込めて応じた。その後、給与台帳などの確認に移った。

 

このようにして二日間の調査が終了した。調査官は「実地調査は今日で終わります。」と述べた後、指摘させていただく点を申し上げますと前置きして

1、在庫の計算が間違っていること。

2、架空人件費がみとめられること。

1も2もその誤りが意図的にされた印象を持っていること。そうならば重加算税を賦課する。重加算税に該当するかどうかは署に持ち帰って上司とも検討してから後日連絡します。連絡は顧問の先生にさせていただきますか、それとも社長ですかと問われた。事業家Qは無意識に「私にご連絡ください」と言っていた。

 

<次回の予告>

指摘された点の根拠、身に覚えがないのになぜ重加算税がかかるのか、税理士の役割とは、修正申告と更正処分>

第6回 事業家Q 税務調査の結果と重加算税の連絡

2019年10月24日

(税務署が指摘箇所について説明した)

1、在庫の計算誤り

「誤りは2点あります。一つは事業年度最終日である8月31日(土)に原材料を1000万円仕入れておられます。配送業者の伝票(写)では貴社の購買担当の方が16時40分に受領のサインをされています。この日は土曜日ですから17時の終業15分前には、貴社では後片付けされる時間帯ですね。ですからこの日に仕入れられた材料を生産工程に投入することはとても5分ではできないと考えられます。

 工程にこの日仕入れられた材料1000万円が全部投入されたら仕掛品の評価が増えますが、材料在庫に残ることはありません。そうでなく手つかずで倉庫にあるなら、この1000万円は全額が棚卸表に計上されないといけません。棚卸表にはこの1000万円は計上されていませんね。どういうことですか。」→「これは『棚卸資産の除外行為』*に該当して重加算税の対象になると考えます。」

 

「二つ目は棚卸表の縦計の計算誤りが200万円あります。決算で会計事務所はチェックしなかったのですか。」→「『意図的な集計違算』*による仮装経理ではないですか?」

 

2、架空人件費

「従業員さんの数が実数より給与台帳の人数のほうがAさん1人多いです。このAさんの『扶養控除等申告書』はありません。他の従業員さんの扶養控除等申告書には皆さんの自著があって揃っているのですがね、Aさんのは見当たりません。人事ファイルにはAさんの履歴書も綴られていません。どうなっているのですか。Aさんは幽霊ですか。Aさんの給与80万円は実在しないかたへの給与と考えざるを得ませんネ。現金で支払った賃金はどこに行きましたか?ご説明願います。まさか社長のポケットには入ていないでしょうね?このお金が」→「実在しない人に給与を払うような経理は事実を仮装して隠蔽したことになりかねませんョ。

「以上*は国税庁の事務運営方針1(賦課基準)の2に該当しますので重加算税がかけられる可能性は否定できません。」

 

 それまでのソフトムードと変わって証拠を前面に立てて理路整然と自信満々に迫ってくる。調査官はたった一人なのに事業家Qは大軍に包囲された落城寸前の城主のような気持であった。以上を告げて調査官は重加算税のことは帰って検討しますと告げて帰って行った。

 

 頼るのは顧問税理士しかいない。税理士は終始無言であったがその時も窓の外をポカンとした顔で見ている。Qは「どうしましょセンセー」と言ったものの内心は「このオッサンしっかりせんかい!」と怒鳴り上げたい気持であった。

 

 で、どうしましょ?と聞けば顧問税理士の言葉は「税務署のいうことは道理ですから修正申告しましょ。モノも考えようで1280万円(1000万円+200万円+80万円)分の修正額だけ利益が出ます。銀行の受けもよくなります。税務署が儲けさせてくれたようなものですヮ。重加算税はキツイから私が税務署に行ってかからないようにお願いしてきます」とのちょっと筋違いの答であった。

 

 税理士はタレ目で謝る姿が似合う先生ではあった。この先生が税務署でウチのために米つきバッタのように頭を下げるのを想像したら事業家Qはさらに哀れになってきて消え入りたい気持ちになった。また倉庫の整頓を怠ったことも原因の一つかと思い、自分を責めるのであった。

 

<次回予告>

講師税理士、身に覚えがないなら相手の言うことを鵜呑みにしないで今一度自分頭で考える、出口が見つかった

第7回 事業家Q 税務調査について講師税理士を訪ねる

2019年10月25日

 他の意見も聞きたいと思って以前訪問した講師税理士を訪問した。相変わらずぶっきらぼうな近寄りがたい雰囲気である。ソフトな顧問先生と真逆であり、違い過ぎて息苦しい。「ピタッとくる税理士はいないのか」と思った。Qの気持ちを見透かしたように講師税理士は「私のこと嫌いな人多いよ。嫌やったら帰っていいよ」と言われ、驚きつつもQは先日の税務調査の顛末を講師税理士に話した。

 

黙って聞いていた講師税理士の説明は以下の通りである。

 

1、在庫1000万円

の貸借対照表への計上洩れはどうしようもない。ここで修正申告して利益は増えるが、棚卸に計上した材料は翌期には消費されるものであるから損金になる。2事業年度を通して見たら増と減で実質は損害はない。

 

2、在庫の集計ミス200万円

は上と同じで一旦利益として資産計上しても翌期は損金処理されるからプラス・マイナスゼロです。

 問題は重加算税だが、課税するしないは税務署が決めるので顧問先生のように「お願い」に行くのは無駄ではないと思う。しかし、もう少し焦点を絞って対策を考えることが重要で、それをしないで単に「お願いに行く」のは的が絞れていないので交渉にもならん。情緒的なお願いは代官の情にすがるようなものでウマくゆかんよ。仮装も隠蔽もしていない、身に覚えがないと思うなら堂々と対等の立場で話し合う条件を作らないと。

 

 重加算税の意味は「事実の全部または一部を仮装または隠蔽」することが要件で「故意に」したことが大前提にある。過失で仮装隠蔽は日本語としてオカシイ。なので故意でないことが証明できれば前提が崩れるので、仮装でも隠蔽でもなくなる。そこで8月31日の土曜日の夕方に材料が届いた時間には在庫調べは終わって棚卸表を作成し終わっていたのか、これなら届いた原材料を誰がどこへ置いたか、置いた人物は棚卸表を作る担当者でない場合なら「ウッカリ洩れた」と説明ができる。故意=仮装隠蔽の線はなくなる可能性は高くなる。

 

 また入荷して終業になってから在庫しらべを担当者でした場合はそのメンバーは誰と誰か、その中に運送会社から原材料を受取った従業員が含まれていない場合は、どうせ倉庫の整頓が悪い貴社なら、そのへんに転がしていたんなら在庫調べをして棚卸表を作る時に計上洩れも起こるわな。

 このように「故意」は社長が仮想隠蔽を指示していないなら、一人の人物が単独でしでかすもので、個々の従業員がバラバラに荷受け、在庫調べをしていたことを税務署へ従業員を連れて行って説明すると在庫計上ミスが集団としての故意ではなく個人のミスからきたと言えるのではないの。

 但し社内不正と言って「従業員が共謀して材料の横流しをする場合がある。税務署に連れてゆく前に極秘に共謀関係がないことの裏付けを取っておくことやな。

 

3、集計ミスが単なるミスか隠蔽かは説明が難しい。

 誰が計算したか、集計ミスをしてその担当者にどのような利益があるのか、何もないと思う。社長が指示したと税務署から睨まれているかも。

 国税不服審判所で争った事例に「その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」をしたかどうかがキーになった例がある。計算した人は、いつもそんな間違いが多いのか、特別なのか、ミスをした部分の前後の数字もみて0と6、0と8とか間違いやすい場合や、誤った差額を9で割ったら割り切れる場合は桁違いや数字の逆さの読み違いです。180万円を108万円と間違ったら差額の72は必ず9で割り切れる。そろばん学校の世界やね。でも手掛かりになるかもョ。これなら故意ではないよね。顧問先生はどういっておられましたか?

 

4、架空人件費は簡単

 ハローワーク経由やネットの紹介会社経由なら、介在した機関への問合せで幽霊でないことが説明できるが、こんどのケースは工場の張り紙を見て雇ってくださいでは証拠がない。今どきの求人難のときに履歴書出せと言ったら逃げられるのも尤も。忙しい時期でしかも採用難であるとしても説明の理由にはならない。

 扶養控除等申告書は年末調整の時に出してもらったら良いと思っていたところ、寿司取って社内で忘年会して給料払った翌日に出てこんということだが、寿司取った忘年会が鍵やね。寿司屋さんの領収書を確かめて、そこに何人前と書いてあればその人数と旧台帳の人数が合う。それが証拠や。外部証拠ほど強いものはない。それとスマホで忘年会の写真撮ってないか、写真撮ってたら現在在籍の従業員さんのカオと一人づつ突き合せたらA君の顔が割り出せる。

 

「この辺でええやろ、もう帰ってんか。よく喋べったからビール飲みに行くわ」と講師税理士は言ったので、事業家Qは「お礼の意味でお伴させてください。勘定はウチで持ちますから」と申し出たが講師税理士の返答はそっけなかった。「ほっといてんか。俺は一人が好きやねん。それとビール代で今日の相談料に代えるのはお断りやデ。後日、請求書送るわ、ウチは高いで!」

 

 しかしQは来てよかったと思った。請求が高くても、出口が見つかったような気がした。軽くなった足取りで駅へ向かった。

 

<次回予告>

故意でない証明の困難さ、税理士代理権限証書、復代理、調査の決着、

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