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納税者と税理士の紛争事例から学ぶ

第49回 記帳代行の会計データは依頼社・税理士のどちらに帰属するのか、、

2019年6月28日

(ストーリー)

 依頼社と税理士は顧問契約の業務範囲に、税理士が総勘定元帳を作成し税務調査の際に出力する旨を定めていました。現実には原資料を毎月税理士に提供し、受取った税理士事務所は事務所にて入力して試算表を作成し依頼社に送付していました。

 依頼社は顧問契約を解除することになり、税理士に対し保有する会計データのすべての引渡しを求めました。引渡さなかった税理士を債務不履行で訴え、他方、税理士側は依頼社に対し報酬の未払分の支払いを求めて相互に訴えを起こしました。

 

(双方の主張)

依頼社:会計データの入力代行を依頼していたのであるから入力の成果物である総勘定元帳を含む会計データの所有権は依頼社にあり、税理士は当然にこれらを引きわたす義務がある。引渡しを受けられなかったため数値の検証ができないため他の税理士に検証を依頼した費用も支払うべきである。

 

税理士:総勘定元帳を交付することは契約したが電子データまで引き渡すことは契約していないから引渡し義務はない。

 

(結 末)

 総勘定元帳は中小企業においては日常的に必要としないため会計データのまま保存しておき、印刷して紙により保存することは想定されていない。会計データの引渡しや所有権の帰属に関する定めもないため税理士が保有する会計データは税理士にあり、その引渡し義務は税理士にはない。

 データは粉飾されており依頼社の従業員に見られたくない思いから依頼社の代表者のみに引き渡す要求であったと認められる。このことは会社組織として会計データを税理士から引取る約束まではなかったとされ、税理士に会計データの引渡し義務はないとの結論になった。

 

(ポイント)

 本来会社に備え置くべきと会社法で定められた総勘定元帳を会計事務所で作成してもらう場合は(電子帳簿保存法の適用を受けている場合のほかは)紙で受け取るか、会計データで受け取って自社で印刷するかを顧問契約に際して明確にするべきであった。

 依頼社は自社の従業員に総勘定元帳を見せられない事情があるため引渡しを強く要求できなかったようである。

このため原データの保有は会計事務所にあり紙に印刷された総勘定元帳を依頼社は入手できないという中途半端な結論になった。税法以前に会社法の趣旨を理解すれば会計データは当然に依頼社に行くものである。顧問契約に際しこの認識を欠いた点が不自然か結果になった。

 

参考:tainsZ999-0211

第50回 税法上の問題を監査法人に尋ね誤回答を真に受けた経理部長が税理士等を訴えた例

2019年7月1日

(ストーリー)

 経理部長が中間監査で会社に来ていた監査法人の公認会計士に租税特別措置法の特例(留保金課税不適用)が該当するかを尋ねたところ会計士は誤って自己資本比率を55.41%と算定してしまい、50%を超えるので特例の適用はないと経理部長に回答しました。実際は50%未満であるので特例が適用され留保金課税はかからなかったのです。

 法人税申告を担当した税理士は経理部長に言われるまま留保金課税がかかる申告をしたため、この会社は過大な法人税を支払うことになり監査法人と税理士に損害賠償を請求しました。

 

(双方の主張)

依頼社の主張:法人税の額に影響する自己資本比率を含めて検証することは監査法人の仕事である。

税理士は自ら自己資本比率を確認したことは認めるが利益積立金と利益剰余金を取り違えた会計士の誤りを是正できず踏襲したことは善管注意義務違反である。監査法人、税理士共に責任を負うべきである。

 

監査法人の主張:税務は税理士業務であり監査法人は税理士業務をすることを禁じられている。受任外の仕事である。監査においては「未払法人税」を監査はするが虚偽表示がないかが監査要点であり租税特別措置法の特例適用の判断は業務外である。

税理士の主張:特例適用の判断は受任外であるうえ経理部長は監査法人に検討してもらったから特例は適用できないと決めていた。依頼外のことをすることは禁じられていた。

 

(結末:地裁)

・監査法人は適正意見の表明が任務であり、留保金課税の適用については受任外である。落度はないとは言えないが法的責任はない。

 税理士には専門家として「依頼社の説明に従属することなく、調査確認すべき」であり、留保金課税の課否は受任対象であり責任は免れない。

 

(ポイント)

 税理士が腰抜けである。よく知りもしないことを軽率に回答した会計士にも責任の一端はあるが、税務に関しての判断を他人に委ねるのは首を敵に差し出すのに等しい。会計士の意見を鵜呑みにする経理部長に対し税理士は自らが調べた結果(留保金課税はない事実)を丁寧に説明して相手の誤りを払拭する態度は必要である。

 経理部長の態度の根底には権威に弱い日本人の特性があり、トクイサキの機嫌をとる税理士の忖度がみえる。結局、高裁での和解で依頼社の損害賠償請求額5896万円に対し、負担額は税理士3000万円、監査法人1000万円で決着した。

 

参考:tains Z999-0118

第51回 面談、資料預り後、相談者の不快感から契約頓挫になった場合に税理士の請求額は回収できるか

2019年7月2日

(ストーリー)

 税理士の後任を捜していた相談者は2月に税理士と面談し口頭で税務の依頼をその税理士にし、税理士はそれを受けました。契約の期間は定めないで顧問料を取決め過去の決算資料などを受取りました。その後、税理士は確定申告の相談を受けましたが、相談者は税理士の態度、応答姿勢に不信感を抱き渡した資料の返却を求めるようになりました。資料は中々返却されないまま相談者は顧問を断ると明言し、一方、税理士から顧問料3ケ月間の請求があったため双方で紛争になりました。

 

 

(双方の主張)

税理士(原告):会計データ処理を行ったうえ「経営会計マガジン」を送付したので税務顧問業務をしている。

相談者:顧問業務を何もしてもらっていない。3月16日に顧問を断り会計資料の返却を求めた。申告は別の税理士に依頼した。

 

(結 末)

 3月10日以降、会計税務処理は勿論、税務相談すら何一つ行ったと認めるものはない。3月前半までの顧問料に限って相談者は支払いをすべきである。

 

(ポイント)

  これは平成18年ころのケースであるが、この頃よりも状況は厳しくなっている。面談で顧問料を決めたりすることはこれまでの慣行であったが現在ではつまずきの元である。

 相談者は、税理士の態度や応答姿勢が気に入らないとして契約の解除を通知したが、人間の反りが合うとか合わないとか、お互い様である。税理士側からも「この人は大丈夫?」と疑問符が付くこともある。初対面から突っ込んだ質問をお互いにして双方が気に入った場合のみ書面で契約するべきである。期限、相談料、資料の提供などについて明確に記すことが後々の争いを避ける最小限度のことである。

 とくに注意すべきは受任が決まっていないのに資料を持ち込んでくる相談者であるそれを税理士が受け取ったら契約したと勘違いされることになる。そしてその資料に手をかけて内容を見るなどしても、後日に依頼を解消することになった場合は請求しても回収はできない。

1、まず契約、2、資料預りから業務をスタートすることであり、この1,2の順序を曖昧にすることから紛争になる。

相談者は多くの場合急いでいる場合が多いので初回の面談で資料を預けてしまいたい傾向が強い。税理士は相手の正体が分かるまでこれに乗ってはいけない。

 

参考:tains Z999-0207

第52回 相続税の特例を受けられなかったのは税理士の説明義務違反と訴えたが棄却された例

2019年7月3日

(ストーリー)

 相次ぐ相続で父、母を亡くした依頼者は配偶者に対する相続税額軽減規定の適用を強く税理士に依頼しましたが税理士は「遺産分割完了時に申告手続きをすればよい」と言うだけで相続後3年以内の分割の成立がない場合の税務署長の承認やその後の更正の請求制度などについて何も説明はなく3年目の税務署長への届出もしなかったため配偶者の相続税額軽減措置を受けられないことで不要な相続税を払う損害を蒙ったとして税理士を訴えました。そのほか延納申請の際に担保提供の説明をしなかったから担保を提供できず、高い延滞税を負担したのは税理士のセイである点と小規模宅地の特例の説明がなかったことで税額が高くなったことも含めて税理士を訴えました。

 

(双方の主張)

依頼者:

・分割ができない場合の説明もないまま、軽減措置を受けられず過剰納付分の損害を蒙った。

・延納をする際に担保提供が必要という説明をしなかった。このため担保提供がないままで延納は認められなかった。延納が認めら

 れたら支払う利息以上の延滞税を負担させられた。この部分が損害である。

 

税理士:

・配偶者税額軽減について依頼者に説明した際、3年以上分割協議に要する場合は税務署長に承認願を出すことを説明した。にもか

 かわらず遺産分割の進捗状況を10年間も当方に説明しなかった。それゆえ税務署長への承認願いの提出についての判断もできなか

 った。

・遺産分割で配偶者が取得する遺産は決まっていなかったのであるから(配偶者の相続税額軽減の説明義務違反があったとしても)

 軽減を受けられないという損害は生じていない。

・延納申請に担保が必要であることは説明したが依頼者は担保に供する物件を具体的に示さなかった。

小規模宅地の特例は遺産が未分割であるから適用はされなかった。

 

(結 末)

・家庭裁判所の審判で配偶者の相続する財産が確定していないので配偶者の相続税額軽減の適用はできない。依頼者は配偶者税額軽減措置の適用を受けることができたとの立証ができていないから賠償請求もできない。

・税理士は依頼者に延納申請書の控えを交付している。この控えには担保記載欄があり担保が必要であると明記されている。依頼者は自ら担保提供書を税務署に持参していることから税理士は担保提供の意味を依頼者に伝えていると認定できる。

・配偶者は実家の母の看病ほかの事情で小規模宅地の適用を受ける物件に住むことはなかったので、そもそもこの特例を受ける居住要件を欠いているので説明義務違反による損害賠償請求には理由はないとした。

 

(ポイント)

 税理士側の完勝である。争いの大部分は対話の際の相互伝達不足ではないだろうか。説明を聞いていない、いや説明した、との遣り取りである。特に配偶者の相続税額軽減措置小規模宅地の特例は大きく税額に影響する。ともに遺産分割が前提条件であるが今どきは世間の風潮は分割が困難になってきているので税理士は注意しなければならない。

 

 税法の規定は複雑であるから依頼者にはなかなか理解が困難と思ってワカリヤスイ表現を用いて、白板やイーゼルにイラストなどを描きながら相手が理解している度合いを確認しながら説明をするくらいが丁度良いと考えられる。

 

 更に、説明が終わった際にはメモで良いから説明した項目を列挙して依頼者のサインをもらうことが重要である。ビジネスの交渉では(特に国際間では)タームシートの作成が必須であるが同じように考えればよい。

 

参考:tains z999-0118

第53回 不動産鑑定によらず路線価で評価して過大相続税納付させたと税理士を訴えたが棄却されたケース

2019年7月4日

(ストーリー)

 バブルが崩壊して地価が急落し路線価を大きく下回る「逆転現象」が起きました。相続税の申告を受任した税理士は路線価で申告しましたが後日、不動産鑑定士の鑑定価額により「更正の請求」を行いました。その後依頼者は別の税理士に依頼しましたが、税務調査が入り依頼者みずから更正の請求を撤回するとともに税務署に対し減額更正を求め、税務署はこれを容れて過大税額分を還付しました。

 

(双方の主張)

依頼者:貸家建付地であることを評価に反映しないため過大評価になった点と、更正の請求期限直前にその書面を提出したため全部

    の土地の鑑定ができず過大申告は是正されなかったことで損害を蒙った。

 

税理士:過大評価を裏付ける根拠はない。還付されているから実害はない。更正の請求期間についても法定期間に間に合うように助

    言している。損害はない。

 

(結 末)

・路線価が実勢価額を上回っていたとは窺われないし、不動産鑑定士の鑑定書によって評価が変わる根拠もないから依頼者の言い分には理由がないとした。

 

(ポイント)

・依頼者と税理士との意思疎通が不十分であったようである。その上、初めの税理士から他の税理士に替えたことは決定的なしこりを残し結果として紛争になったが依頼者の言う損害額=希望評価額による相続税額であるため棄却された。要求が事故の希望額になり肥大化している。

 

参考:tains Z999-0086

第54回 司法書士が相続人を誤認、相続税申告をした税理士にも等しく責任ありと判断された例

2019年7月5日

(ストーリー)

 相続税の申告に際し、司法書士事務所が作成した相続関係図をもとに税理士は相続税の申告書を作成しましたが、この作成を担当した司法書士事務所補助者の判断誤りで相続人ではない人物を相続人としていました。相続人の数が多いことで「遺産に係る基礎控除」額が過大になり税額が圧縮される結果になっていました。税務調査においてこの点を指摘され修正申告で加算税を支払うことになり税理士にも損害賠償の負担を求めました。

 

(結 末)

 相続人を間違えたことは司法書士に相当の注意義務違反による過失がある。税理士が相続税申告書の作成にあたり相続人を間違えたのは司法書士の間違いに由来するとはいえ過少申告加算税と延滞税の負担をしなければならないことには税理士の間違いと相当の因果関係がある。

 税理士には相続税申告書作成に当たり相続人を調査確認する義務があったにもかかわらずこれを怠ったことは司法書士と同じ比率で債務不履行による損害賠償として1707万円の支払義務がある。

 

(ポイント)

 通常、相続関係図の作成は懇意にしている司法書士事務所に作成をお願いし、それをもとに申告をすることが多かったのでこの事案にはドキリとした。

 確かにこの事例は被相続人と女性某が養子縁組をする前に女性某が産んだ子であるため被相続人の相続人にならないという複雑な事案であった。このような場合でも税理士は自ら除籍謄本などを読み込んで判断しなければならないと警鐘を鳴らしている。

 

参考:tains Z999-2046

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