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木村栄昌

『項羽と劉邦』から経営者の
リーダーシップを考える

貴族の出で、武勇に卓越し兵書も読み、勇気、体力抜群の項羽が、ならず者上がりの字もロクロク読めない劉邦になぜ敗れたか・・・・・・このこたえを明解にしようとするのが本稿の最大の狙いであります。また、この点こそが現代に生きるわれわれが組織で事を成そうとする時に絶対的に学び取っておくべきポイントではないでしょうか。

本稿では、古代中国の英雄を題材とした司馬遼太郎の名作『項羽と劉邦』を読み解き、項羽と劉邦それぞれの人柄を13の視点から分析し、両雄の人物像を比較検討しています。また、あなたが劉邦型か項羽型か、はたまた混在型なのかを判定する、簡単なチェックリストも掲載してあります。御一読いただければ幸甚です。詳しくは,ぜひ司馬遼太郎先生の『項羽と劉邦』もお読みいただければと思います。

序、生い立ちと血筋・・・・・・そして到達したところは。

項羽

  • 項氏はもともと楚の貴族であった。楚国の名将、項燕将軍の血筋である。
  • 兵書を読む。
  • 身のたけ八尺を越える大男で頭脳の回転が早い。その肉体的な雄大さと人柄は各地の若者たちの人気を得るようになっていった。
  • 有力者の叔父(項梁)が後だてになってくれた。

到達したところ

項羽が率いてきた楚軍は四散し、長江のほとりで一人で敗死。ときに31歳であった。

劉邦

  • 劉家はごくありきたりな農家であり、名前は正確にはつけられなかったらしい。 名がなくても通る土俗的な集落に育つ。文盲ではなかったがそれに近い。
  • 賭博や盗賊も働く、町の与太者達とつき合う内、自然に彼等が劉邦の下座につくようになる。町の遊び人であり一種のごろつきとして子分をつれて歩き、地元から毛嫌いされた。

到達したところ

一代で漢帝国創設。漢の高祖とあがめられる。

1、近づいてみるとどんな人柄だったか。

項羽

  • 自分の観念が強すぎる。
  • 自尊心も強い。
  • 衝動的行動・・・・・・自己中心でまわりを振り廻す
  • 幼児性・・・・・・一旦劉邦を生けどりにしておきながら幼児性と甘さがわざわいして、結局恥も外聞もない捨て身の劉邦に逃げられてしまう。
  • 気まぐれ・・・・・・多分に女性的な。
  • 枠にはまった思考。
  • 自分で自分を一番愛する人。

劉邦

  • 愛嬌がある。
  • 可愛げがある。
  • 何かしてあげたくなる男。
  • 自分を知っている。
  • 自然体である。
  • 女性からみた劉邦像——劉邦という年中町をごろついている男を好きだとおもっている者など居なかったといっていい。

2、人にまかせることができるか。

項羽

  • 匹夫の勇であった。

劉邦

  • 人にまかせられる性質とは・・・・・・まわりが協力したくなる。
  • まかせるとなると徹底してまかせる。
  • 任された相手が壁にあたったときは、こだわらず元どおりにする。拘束、固定しない。組織全体がうまくいくことを考えている。

3、不遇のときどうしたか・・・・・・弱みをさらけ出し、自分を笑いとばすこだわりのなさがあるか。

項羽

  • 百戦して百勝(但し戦術的にではあるが・・・・・・)してたった一度敗れただけなのに、死に急ぐ。
  • すぐ感傷的になってしまう。
  • 一つうまくいかないと挫折する。
  • 体面を考える。

劉邦

  • エエカッコしない。限界を感じてつかれ果て、投げ出したくなったとき彼はどうしたのか——なりふり構わず取り乱した。取り乱してもなお支持してくれる腹心あり。現代の経営者で上の気持をかつてもたなかった人はないのではあるまいか。
  • 敗けても敗けてもなりふりかまわず身一つで逃げ、次の機会を待つしぶとさ。しかもなお愛嬌がある。

4、戦略・戦術・指揮方法はどうか。

項羽

  • みずから矢を射、鉾をふるう。
  • 作戦行動は戦術規模どまり。
  • 個々には派手に大勝するが戦略がないのでいつも同じところをクルクルまわっているにすぎない。
  • 組織による勝利でなく個人プレイで勝つ。だが結局は戦術規模の勝利。

劉邦

  • 諸将を督励して動かす。
  • 戦略展開のみ志向。
  • 局地戦での負けは戦略(大局)に影響せず。
  • 組織で勝負。しかし自分は後方にひっ込まず前線に身をさらす。
  • 危機に際しては逃げずに身を捨てる度胸。
  • 作戦は常に幕僚の情報整理をもとにする。衝動的行動はしない。

5、部下にどう接したか・・・・・・寛容であったか否か。

項羽

  • その温情は・・・・・・婦人の仁
  • 寛大さがないため有能の士に去られる。

劉邦

  • クールに接する——敵や自分を裏切った者をそれほどに憎めないかわりに、配下に対し情熱的な愛を注いだこともない。
  • 人の話を最後迄聞く。ふだんは話の先廻りはしない。
  • 怒らないようにつとめる。
  • 「長者」の評——人のささいな罪や欠点を見ず、その長所や功績をほめてつねに処を得しめ、その人物に接するとなんともいえぬ大きさ温かさを感じるという存在。
  • 寛大の徳。
  • 「信」の人。
  • まわりが疲れない。

6、「気前のよい男」だったか、どうか。

項羽

  • 吝嗇プラス猜疑心・・・・・・誰でももっているものではあるが使われる者からみれば、これ程嫌なものはない。

劉邦

  • 放漫なほどに気前がよい。

7、人の話を聴いたか、献策をとり入れる度量は。

項羽

  • 人を認めない、受け入れない(この手の社長も多い)

劉邦

  • 全身で聴く
  • 人を認めてとり入れる。

8、現実を直視したか・・・・・・食糧は現代ではカネのことである。

項羽

  • 食糧(現代のカネ)はどこかから湧いてくると考えていた(こんな社長が案外多い)。

劉邦

  • いつも兵を、人を食わせることを第一に考えた。

9、型(礼儀作法など)にとらわれたか。

項羽

  • 自己の感性より型に支配される。

劉邦

  • 型やぶり。

10、自己の血縁者をどう遇したか。

項羽

  • 血縁者の外は信用せず。

劉邦

  • 他人の誠実を信じる。

11、コミュニケーションは十分とっているか。

項羽

  • コミュニケートなし。

劉邦

  • 常に意思疎通をかわしておく。

12、自分で自分のことをどうみていたか。

項羽

  • 自分は強い、偉いと思い人を見下す。

劉邦

  • ありのままの自分をみつめ且つ敵も認める。

13、リーダーシップについて、その他の事項。

項羽

  • 暴虐——人気がなくなっていく。
  • 城をおとして二十万人を穴うめにした・・・・・・リーダーとして二流。

劉邦

  • 将に将たる器。
  • 目的志向。
  • 大度量。
  • 関中に入ったとき財宝や女官に手をつけず人気が出た。

あとがき

原作(司馬遼太郎著『項羽と劉邦』新潮文庫)を読み返し、自分が心の中にもつテーマごとに原文を抜き書きし、そのテーマのもとにつなぎ合わせる作業をしていくうちに、ここで書かれていることはそのまま企業の経営についてあてはまると今更ながら感じました。

また私がこんな人物になりたいと思っていたイメージが劉邦であることにも気付きました。平時は頭でわかっていても、問題が目の前に生じたとき、劉邦さまのように行動できるかと考えると、その落差の大きさにため息がでます。

ともあれ、読んでる内に劉邦びいきになってしまったため、まとめるにあたり、「私の好きな劉邦」に合わせてしまい原文の中から私ごのみのところだけを片寄って選択した結果となったかも知れません。

その分、項羽さんには逆に悪い材料がより多く無意識のうちに集積されたかもしれません。お気づきの点があれば、どうかご指摘ください。

あなたが劉邦型か項羽型か、チェックリストとして活用できるように工夫しました。この項目は原文の切った貼ったの作業の過程で湧いてきたもので、最初から枠をはめて項目を設定したものではありません。この小冊子は、私自身の成長のためにも、文字どおり手引きとして役立つと思います。

更に皆様の何等かのお役に立てば更なる幸いです。

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