冬の時代を笑いで乗切るために
—これからの経済・世相に備える—
上のものほど新しい記事となっています。
<短編物語>第3話 二次相続 その2
税務署からの「相続税についてのお知らせ」
和子のもとにも「相続税についてのお知らせ」が来た。税務署からの封筒が来たことがなかっただけに、不安になった和子は一郎に電話した。
「一郎さん、あなたのとこにも来ているの、税務署から、、」
「来ているよ。姉さん。」
「どうして税務署が知らせてくるのかしら。なぜわかるの?」
「お母さんの死亡届が市役所に出されて、それが法務省でまとめられて国税庁からお母さんの住所地の税務署に通知されるとインターネットで出ていたよ。」
「でも死んだら皆がみんな相続税がかかるのではないとお父さんの相続の時に言ってたじゃない。なぜウチが目を付けられているのが分からないの。」
「それは姉さん簡単なことだよ。お父さんのときに税務署へ相続税申告書を提出していたから紫野の自宅があることは税務署は把握している。市役所で固定資産税も納めているからキャッチしているよ。それと申告が必要かもしれませんとの連絡で、目を付けられているのとは違うよ。」
「そうなの。初めはびっくりしたわ」
「ところで姉さん、今は国税庁のホームページで相続税の申告要否検討表という便利なものがあるからここへ記入してゆけば判断できるよ。父の時に勉強したから税金がかかるかどうかは割合簡単にわかる。しかし空家になっている紫野の家と土地を誰が引き継ぐかの方が問題だよ。」
「あたしは預金があるからこれを戴きたいわ、、」
「姉さん、預金が欲しいのはみんな同じだよ。近いうちに会ってどうするか決める必要があるね。勝子姉さんにはメールで連絡すればよいね。」
「私はコンピュータが苦手なので一郎さん、勝子への連絡も相続税の計算もおねがいね。旦那の会社がうまくいってないので家庭内が険悪なの。早くお金欲しいわ、、、!」
次回予告
ミラノの勝子と連絡が取れた。海外居住のため相続税申告には納税管理人の届出や署名証明書や在留証明書は必要になり新たな問題が生じる。
<短編物語>第3話 二次相続 その1
はじめに
夫の相続の2年後、春枝は亡くなった。相続される財産である紫野の自宅8000万円は一回目の相続の時と評価額は変わらない。預金が1億円に増えている。その理由は、叔父の会社の株式を春枝が相続したが、同社に自社株として買取ってもらった代金により預金が増加した結果である。借入金はもともとなかった上、先代が当該会社の銀行借入金の連帯保証人であったところ、社長である叔父の判断で、銀行借入金を繰上げ返済したため、主たる債務の消滅に伴って保証債務も消滅した。
相続人と相続財産
遺言書は発見されなかった。この結果、自宅の土地・建物と現預金が相続財産であり、相続人である 長女:和子、次女:勝子、長男:一郎の3人によって遺産分割協議により承継されることになる。
相続人の現状
和子の夫が経営する会社は相変わらず資金繰りに追われ、銀行に追加融資を要請しても担保の提供を求められている。空家になる京都・紫野の自宅に強い関心がある。資金不足の会社であるため、夫が毎月キチンと家庭に生計費を入れることができないため和子は隣町にあるスーパーのレジ打ちで働いている。近所のスーパーでは噂になることを避けるためでった。夫婦仲もよろしくなく時々生まれ育った京都に行きたいと思うこともあるが新幹線費用が惜しくて実行できていない。
勝子は大阪の店を処分し、パリのパサージュに店を構えたが、勝ち気な性格のためフランス人の従業員と些細なことで言い合いになり、その従業員は退社したうえパワハラであるとフランス人弁護士に依頼した。フランス語が得意な勝子であったがフランス法の語彙が分からず自分で弁護士を立てる費用もなく、結果として相手方弁護士に押し切られた結果になり解決金を払うことになり資金が底をつきかけている。
人員を補充するため伝手を頼って募集しようにも勝子の出す給与条件が低過ぎて結局スタッフの補充は出来ないまま過労がたたり、情緒不安定に陥った。間もなくパリの店も閉じてミラノの裏通りでごく小さなブッテイックを細々運営しているが、もともと資金不足で発足したため資金繰りに悩まされている。異国で銀行借入もままならず日々を何とか凌いでいる状態である。
一郎は堅実な会社勤めで大きな変化はない。資金に不足気味の姉たちとの遺産分割協議のテーブルにつくことを考えると気分が重くなる。会社での立場も安定し、自宅も確保しているため、ゆとりがある。しかしながら子供たちに少しでも良い教育を付けさせたいと考えるため私学へ進学させる学費に遺産を充てたいと内心で思っている。
次回予告
京都市北区紫野を所轄する上京税務署から「相続税についてのお知らせ」が送られてきた。話合の始まりである。
<短編物語>第2話 相続から争族へ その7<最終回>
前回までのあらすじ
相続人の間での争いは母 春枝や長男 一郎の冷静な対応で時間とともに、とりあえずは終結した。また叔父の会社の株価対策や連帯保証人の問題も経営者として友好的な対応により、相続後の解消が見込まれることになった。そう遠い先ではない春枝の相続(2次相続)では、今回回避された問題が浮上してくることは間違いない。
このたびの相続での要点と解決のいとぐち
1,全般・相続税は過酷である
相続人それぞれが、決して富裕層ではない平均的な市民であるところへ父の死で相続税が突然のようにかかることになったこと。母は主婦、長女も主婦であるが夫は事業資金に困っている。次女も事業資金は十分ではない。長男は勤め人であり、みんながごく普通の生活のところへ相続税がかかってくるのが現実である。相続税がかからない層は資産を所有しない層と言い切れる。
→こうなればどうなる、との危機感をもってあらかじめの知識的な備えが必要である。春枝と一郎が書籍によってある程度の情報を得ていたから混乱しなかったものの、「ある程度の情報」すら持たない人々が圧倒的に多い。感情的になってしまう。対応を誤ると継承した私有財産が減ってゆくことになる。働いても国家の手で無産階級になってゆきかねない。知識と智恵が自己を守る武器である。
2,まず全体の輪郭を知る
相続税額を自分で計算することは困難ではない。その輪郭を知ることが非常に重要である。
→母が全部の遺産を相続すれば(申告は必要であるが)とりあえずの税金負担がない点が重要であった。
3,優遇規定に注意
配偶者の相続税額軽減と小規模宅地の規定は遺産分割と期限までの申告が必要である。この事例のような遺産の額どころではない莫大な遺産額の場合や、負債がある場合は申告期限10ケ月 以内に遺産分割が決まることは困難である。
→遺言があれば遺産分割協議は不要であるが、遺言内容に不満が出たり遺留分の主張が生じる。生前から話合ができればなによりである。相続人同士がそれぞれ弁護士を立てて争う事態が近年増加している。弁護士先生に入っていただくことは争い(身内同士の戦争)を視野に入れることで、その先には裁判所というムツカシイ場所がある。裁判後の身内間に禍根を残しかねない。司法過程に行く前に行政段階の資格である司法書士や税理士の手を借りて戦わずして収まる(孫子の兵法)のが望ましいと考える。
4,やはり現金も魅力
父が現預金を残してくれたからゆとりができ、話もまとまったが、現預金がなく不動産が多くを占める場合は、不動産の売却やそれに伴う譲渡所得税が生じ、もめ事のタネが増えるので注意が必要である。
→納税資金がない場合は相続税の延納や物納制度があるが、思うとおりに進まない場合が多い。銀行から納税資金を借入れるケースもあり、借入か延納かの選択の問題がある。どちらの道であっても利子の支払いを避けて通れない。
この事例でも司法書士を通じて必要な知識を提供してくれる税理士が存在することで戦争状態になることは避けられた。気軽に相談できる司法書士や税理士を身近に知ることは重要になってくると思われる。戦争は最後の手段である。
5、負債に注意
資産の部だけでなく負債も生前から認識しておくこと。連帯保証などはなかなか表に出てこない。
→被相続人予定者にズバリ「連帯保証人になっていますか」と生前に聞くのが早道である。
6,中小企業の株式
株主をやたら分散することは良くない。この例では株主は父と叔父だけであったが相続人の立場からは中小企業の株式は、現預金ほどありがたくはないものである。申告に際しての株価評価も専門的な知識が必要である。
→経営者のみの保有が良い。
<短編物語>第2話 相続から争族に その6
前回までのあらすじ
叔父の一喝で姉妹は自己主張をやめた。その結果、全財産を春枝が相続する流れになってきた。叔父の会社の株式や保証の問題も自社株買いや借入金の完済で解消する見通しになった。
相続人でない者からのクレーム
和子の夫が「民法の定めで遺産の半分がお母さんに行くのは分かるが残り半分を3姉弟で割った遺産の六分の一は妻 和子にも取り分があるのではないか。このたびの相続で和子は何も相続できないのはおかしい」と言い出した。
春枝が相続人全員が合意すれば民法より、その合意が優先すると電話で説明したが「そんなことはない。税理士に直接意見を言う」と強硬である。
税理士は
・遺産の継承に関してはお母さんの言われるとおりであること。
・相続人ではない貴殿は遺産分割に関し、意見を言う立場にないこと。
・税理士は、相続人ではない人からの質問には返答することはできないこと。
を伝えたことでクレームは収まった。
申告書作成に関し勝子のクレーム
「お母さんが全部相続されると相続税はゼロだから申告もしなくてよいのよね。あたし日に日に治安が悪くなるこの国を早く引き払いたいの。島之内は昔は船場・島之内と言われていた上品な街だったのに、、いまは外国語のほうが多い。もうこんな腐臭のする国から出たいのよ。」
「勝子姉さん、申告は必要ですよ。優遇措置の配偶者の相続税額軽減も、小規模宅地の特例も申告書を税務署へ提出することを条件として認められているの。だから期限までに必ず税務署へ相続税申告書を提出しなければならないのょ。」と一郎が説明した。
「一郎、あんたいつからそんなに相続税のこと詳しくなったの?」
「俺も本読んで勉強したから。」
「どんな本や、、ホンマか。昔はアタシにどつかれて泣きべそかいとったくせに、一人前のこと言うやないか、どんな本や、ウソ言うたら怖いで、、」
「はい勝子姉さん『Oh!相続税申告書が自分で作れる』という本です。姉さんも読んでみたら、、」
「あほらし。アタシは勉強嫌いなんや。それよりアンタが申告書書いてくれるならタダですむということね。あたしは費用は負担しません。お金ももらえないのにあほらしいヮ」
「株の評価はなかなか難しいので税理士さんに費用払わないと解決できないよ。それに先々税務署が税務調査に来た場合にも専門家がいないと心細いよ。」と一郎。
税務調査の及ぶ範囲
「なにィ税務署が来るやて、、、嫌やなァ。以前ウチの店にきたときつかみ合いのケンカになった。思い出したくもないわ。わたしにも税務署はくるの?」
「勝子姉さん心配いりません。税務署の調査の対象は相続税の納税義務者である『相続により財産を取得した者』だから財産を取得しない勝子姉さんは納税義務者ではないから調査の対象ではないことを税理士さんに確認しておいた。」
一郎はこのたびの相続税申告は自力で行い、相続税調査になった場合はその時に税理士を受任者として「代理権限証書」(いわゆる委任状)を税務署に提出する考えであった。
次回予告
要点を整理して実際に良く立つ点を解説します。
<短編物語>第2話 相続から争族へ その5
前回までのあらすじ
遺産分割をして配偶者の相続税額軽減規定や小規模宅地の特例を使って母 春枝が遺産を引継げば、このたびの相続税額は無いということが一郎から説明された。亡父が連帯保証人になっている叔父の会社の財務状況を調べることを一郎に託し、姉妹は急遽 春枝に会いに行くことになった。
母の方針 姉妹に立ちはだかる現実
春枝は相続直後とは別人のように元気になっていた。
「私、時間に余裕ができたので相続のこと勉強したの。たまたまアマゾンで目にしたのだけれど『終活と税金』『アンチエイジング税務』の2冊を読んで自分のことなのだからしっかりと自分の方針を持たなきゃいけない、周りに振り回されては後悔すると思ったの。」
「それでお母さん、どんな方針なの?」
「ちょうどお二人がお見えになったので良い機会ね。こういうことよ。
これからもこの家に住みたいので自宅と、これからの生活のことも考えて預金も、それに叔父さんの会社の株も私が相続しようと思うの。買った本によると、お父さんは遺言を残していないので遺産分割協議になるので、あなたがたと一郎の同意が必要だけれど、私が相続することで相続税がゼロなのでこれが一番良い選択と思うのよ。」
「お母さんチョット待って。ココへ来る途中に妹と話したのだけれど、私は主人の会社の資金が不足しているし、勝子は治安が悪くなった日本からパリに移る資金が要るので、いくらかでも私たちにお金を回してくれないかしら、、この家や株式はともかく現金が欲しいのよ」
勝子が口を挟む。「あたしと姉さんは大学に行ってないのョ。短大と専門学校しか出てないのに一郎は4年制大学に行っている。この違いの分に応じたお金はこのさい戴きたいのよ。」
「昔のこと言いたくないけれど勝子は勉強が嫌いで早くお商売したい、和子も4年も勉強するのはイヤと言って2年で終わる短大に進んだの覚えている?お父さん私もあなた方の希望通りにしたのョ。経済的な事情で4年制大学へ行きたいのを辛抱してもらったのではないよ。覚えている、このこと。だから勝子の言うことは受け容れられません。」
叔父の会社の財務内容につき一郎からの報告
税理士さんに同行してもらって叔父の会社の決算書類を見てきました。
・銀行借入金は順調に返済が進み残額が700万円まで減少していた。
・会社には利益剰余金が資本金の30倍も留保されていたので父の持株は自社株買いができる。また、銀行借入金を一括返済できる資金も充分あるので完済も可能である。叔父さんが言うには、今後、銀行借入するかもしれないが、昔と違って金融庁からガイドラインが出て連帯保証人なしで借入も可能になった。だから今後、皆さんに連帯保証人をお願いすることはない。
・自社株として買取る場合の価額は税理士さんを交え、今後なるべく早く春枝さんと詰める。
叔父さんから姉妹への伝言
<一郎君からあなた方の話の中身は聞いた。和子も勝子も自分のことばかりを言う。少しはお父さんに感謝の気持ちをもてないのか。世間には資産より負債の方が多くて親の借金を子供が返済する例もある。旦那の会社のカネが足らん?パリへ出店したい?上等や、しかしそれは親のカネをあてにするものではない。自分が身ィを粉にして働いてしたら良いだけのことや。少しは恥ずかしいと思いなさい>
次回予告
叔父の一喝で姉妹の自己主張は収まり、全遺産を春枝が継承することで話はまとまる兆しが見えてきたが、和子の夫が口を挟んできたうえ、相続税申告書の作成費用の負担を誰がするのかや、申告書提出後の税務調査は誰が受けるのかなど、もめる話はつきない。
<短編物語> 第2話 相続から争族へ その4
前回までのあらすじ
勝ち気で奔放な次女の勝子が話に入ってきてから姉の和子も影響され、口をそろえて「お金が欲しい」との主張を繰返す。冷静な一郎は相続税額2千万円は遺産分割して優遇規定を適用する前であるから、優遇規定を適用した場合の税額の試算も税理士から取っているからその説明をしようとするが、姉妹は「ムツカシイ話はイヤ、とにかく現金が欲し欲しい」の一点張りである。
優遇規定と遺産分割
「あんた、わかってるやろうな、アタシを怒らさんといてや、、!!怒らせたらどうなるか、昔みたいにエライ目に合わせるで。あんたのカラダにコワイこと沁み込んどるやろう、気イつけや!一郎」と勝子は脅してカネの無心をするような姿勢である。
「勝子姉さん、何が気に障ったのですか」
「お父さんのお金が一千万円しか残っていないのに納めなあかん相続税が2千万や。ヤマよりでっかいししが出てるがな。その税理士アタマおかしいんちゃうの、腹立つヮ。こうなったら家売るか、会社の株を叔父さんに買取ってもらうしか方法はないね。アタシは手っ取り早く直ぐお金が手に入るかと思って今日来たのに、、、」
「分かりました姉さんがた、相続税がゼロになる場合もあると税理士さんのレポートにあります。ここを説明しますね」
「ええーつ、それならあたしらはお金すぐもらえるということ?はよそのこと言ってもらいたかったわ」
「お金はもらえません。こういうことです。お母さんに遺産分割で全財産を相続してもらったら1億6千万円までなら相続税は無税です。遺産は説明しましたが1億8千万円あります。なので2千万円オーバーしています」
「オーバーしてたら税金とられるの?」
「和子ねえさん。オーバーしてても別の優遇規定があります。自宅330㎡までは2割しか課税されないのです。紫野の家はちょうど100坪ですから8千万円の自宅の評価は1600万円に下がるので遺産全体で余裕で1億6千万円を下回るから税金はないのです。」
「その話つって結局、お父さんの遺産を全部お母さんが相続しないとそうならないのね、、?」
「和子ねえさん、その通りです。」
「あほらし、結局お金はもらえないんだ。これじゃパリに店出すのもできないっていうこと?私、パリの次はミラノのドウオーモの横手のアーケードにも進出したいのに、、何もできないのね、、」
「そうです勝子姉さん」
「じゃあ聞かせて、どうして配偶者が優遇されるの」
「遺産の形成に協力したからです。法の趣旨らしいよ」
和子と勝子「、、、、、、」
連帯保証人
ここで一郎は前に和子に話した、父が叔父の会社の連帯保証人になっていることを勝子に話した。勝子は事業をしているだけに理解は早い。
「叔父さんの会社が倒産したら私らが責任負うなら、私もういやや、相続放棄しようかな。」
一郎が言う「お父さんは叔父さんの会社の株の20%も持っているので叔父さんの会社の決算書を閲覧できるらしい。なので経理を見せてもらおうと思う。」
和子「一郎さん調べてみて叔父さんの会社の内容を。それと一度お母さんのお見舞いもしたいので私この足で紫野へ寄ってみるわ。お母さんが全財産を継承して相続税がないならそれでも良いと思う気がしてきたの。勝子はどうなの」
「姉さんと一緒に紫野へ行ってみる。どうするかはそれからよ、、」
次回予告
母親の考えが明らかになる。特に叔父さんの会社の持株については母親から具体的な方策が話された。また連帯保証人の立場に関しても子供たちが不安に陥らない道が母親から提案されることになる。
<短編物語>第2話 相続から争族へ その3
登場人物
藤谷孝雄 最近亡くなったお父さん(被相続人)
藤谷春枝 孝雄の配偶者 体調良くない
中井和子 長女 東京に住む 夫の事業資金が不足気味
藤谷勝子 次女 大阪でブテイック経営 フランス語ができる
藤谷一郎 長男 会社員 名古屋に住む
吉田神楽岡の叔父さん 孝雄の弟 会社経営
前回までのあらすじ
税理士から相続税のおおよそは2千万円であると伝えられた。先日、和子と一郎が相続について話し合った。遺産は自宅8000万円、現預金1000万円、会社の株9000万円であった。その上叔父の会社の借入金の連帯保証人に孝雄はなっていた。和子と一郎は納税資金が足りないとの認識があった。
遺産分割
「あたしこんな国に税金払わないョ。アメリカにお金持って行かれて、中国に国内の土地ドンドン買われて、、治安は悪くなるし、私、近いうちに島之内の店処分してパリのパサージュに開店する段取りができたの。今日はその資金の足しにでもと思って来たのよ。一郎さんお金どれくらいあるの?」
「現預金は1000万円です。」
「ええーつ、そんなに少ないの、それで相続税額が2000万円だって、どうして」
「紫野の自宅の評価が高くてその上、神楽岡の叔父さんの会社の株が同族会社なので評価が高いのよ。」
「あの叔父さん、ボーとしてるけれど見かけによらないね。利益出てるのね。私は外国の開店資金の足しにしようと思ってここへ来たけれど預金1000万円じゃ相続税払うこともできないね。」
「税金2000万円なのに預金1000万円ならどうするの?」と和子も言う。
「結局、自宅を売りに出すしかないだろう。」
待ってよ一郎さん。「それならお母さんの住むところがなくなるよ。」
体調不良の母を除き前回参加できなかった勝子も参加して話し合いが行われるが納税資金が足りない点とその前に叔父の会社の株価が高いことが理解できない。
「お父さんは叔父さんの会社の株を20%ほど持っているだけなのにこんな金額になるの」
「税理士さんの話では株主が親父と叔父さんの二人だけの同族会社の場合、持株が5%以上なら原則的評価といって高い評価になるらしい。
「それと税理士さんが言われるには税額2000万円というのは相続税の優遇特例を受けないでの話で優遇特例を受けるには遺産の分割ができることが要件らしいよ。
「あたしはパリに店だすので現金が欲しい。」
「私も主人の会社の資金に加えるため現金が欲しいヮ。叔父さんの会社の株式なんて要らない。」
「姉さんがた。その前に相続税2000万円が概算で多い目なので優遇を適用したらどれぐらいまで下がるかの話も税理士さんに聞いている。その話をしようかまず。」
「ムツカシイ話は嫌よ~。とにかく私は現金がほしい。」
「あたしも勝子と同じよ。自宅を売ってお母さんの行くところないのは嫌だけれど、どうしても現金が足らないなら、心を鬼にしてでも家を売って現金を得たいわ。」
「あたしも賛成。」
次回予告
叔父の会社の連帯保証人になっていることを知った勝子は更に態度を硬化させる。いよいよ、それぞれの本音が出てくる。
<短編物語>第2話 相続から争族へ その2
前回までのあらすじ:父の藤谷孝雄が亡くなり長女の中井和子と長男の藤谷一郎は、先日、今後のことを話合った。相続人はこの二人に加え母と次女との4人である。和子は婚姻で東京に住み、メーカー勤務の一郎は仕事の関係で名古屋に居る。次女勝子は大阪でブッティックをしている。
相続税
司法書士の紹介の税理士から概算であるが相続税の納税額の報告が来た。相続税が2千万円かかると報告書にはあった。
「何でこんなに相続税が高いの、いったい誰が払うのこんな金額、、」
「われわれよ。4人が払うことになる」
「バカ言わないで。私んとこはお金ないのよ。旦那が繰上げ退職で、退職金を元手に事業始めたの。でもうまくゆかなくて銀行に相談したら担保を出してほしいと言われたばかりなのよ。それで紫野の実家を担保に出そうとお母さんにお願いしようと思もってた矢先なの。」
「遺産は自宅のほか何があるの、一郎さん知ってるなら教えて」
「税理士さんが税金の試算のためには財産リストが要ると言われたので母に協力してもらって作っってみた。」
「それで」
「紫野の自宅と預金など、それに会社の株式だった。インバウンドとかで京都の地価が上がっていて自宅の評価が8000万円、預金類が1000万円、会社の株式が9000万円、借金はないので資産合計1億8000万円なのよ。」
「待って!会社の株っていったい何のこと。お父さんは会社の勤め人で経営者ではないからどうして株が遺産の中にあるのョ」
「吉田神楽岡のおじさん知ってるだろ。あの人がやっている会社の株があることが分かったんだ」
「あの嫌な叔父さん?」
「会社を始めた時に出資してくれと言われて、、その後、会社は急成長して利益がずいぶん溜まっているので株価が高いらしい」
「その会社は上場しているの、それならお金に換えることができるけれど。どうなの一郎さん」
「上場していない。それどころか父はその会社の借金の連帯保証人になっている」
「それって叔父さんの会社が借金を返せないときには亡くなったお父さんが肩代わりするということ?」
「今のところ倒産するようなことはないと聞いたよ」
「ああ心臓がドキドキしてきたわ。相続税払うためにお母さんが住む紫野の家を売ったらお母さん住むところないじゃない!そうなればうちの旦那の担保にも付けられないし。そのうえ叔父さんの会社が行き詰まったら借金肩代わりしなければならないの?。私ら相続人に残るのは預金と売れもしない会社の株だけ、、あたし息苦しくなってきた。帰らせてもらうわ。今度は勝子にも入ってもらって話し合いましょ。ああ気分悪い悪い!」
次回予告
パリに店を出したい次女の勝子が話合に入って大荒れになる。想定された相続税額は遺産が未分割であるため税額は多くなっているので、遺産分割が決まれば半額近くに減少することを税理士から聞いた一郎の説明で具体的な遺産分割の話が中心になってゆく。しかし綱引きだけで出口は見えない。
<短編物語>第2話 相続から争族に その1
姉と弟
中井和子と藤谷一郎は京都の小料理屋で差し向かいで食事しながら最近亡くなった父親の相続税について話し合っている。
この辺りは観光地域ではないため外国人観光客の姿はなく、京都らしい落ち着いた界隈にその料理屋はある。大宮通りを綾小路で西に曲がったところに目立たない看板で料理屋であると分かる。少し西に向かえば新選組の屯所があった土蔵のある邸宅が立ち並び、壬生寺も近い。静かである。
二人の父親、藤谷孝雄が亡くなって母親と姉二人、それに年齢が一番下の弟である一郎が相続人である。あらかじめ一郎の知人の司法書士に隠れた相続人が居ないかを父が15歳くらいまで戸籍を遡って調べてもらった。想定外の相続人が出現すると相続税はもとより遺産分割にも大きな影響が生じるからである。司法書士の報告ではその懸念はないということであった。
一番気になることは遺産の分割である。長女の和子と違って次女の勝子は積極性のあるヤリ手で大阪、島之内でブッテイックを経営している。フランス語もでき海外に買い付けに行くため視野も国際的である。和子は東京で主婦をしている。一郎はメーカーに勤務している。父が亡くなったため京都 紫野の実家では母が一人になった。
「あのね、お母さんのこれからのことが私は一番心配なのよ」ため息交じりで和子が口を開いた。「先々姉弟の誰かが引き取って同居することを母が希望してもみんなその余裕がないと思うのよ」
次回予告
相続人の経済事情が明らかになるにしたがって本音が表にでてくる。伴って感情的な言葉のやり取りから姉二人と一郎は対立関係になってゆく。母には認知症の兆候がでてきた。司法書士の紹介で相続税額を試算してもらうため相談した税理士から予想される概算税額の報告がきた。その税額を知ってからさらに対立は深まることになる。
<短編物語>第1話 坂の下の泥沼:経営コンサルティング会社破産の時代 その4
前回までのあらすじ:資金が逼迫しているなか、大パーテイがおこなわれた。会場のホテル支配人の口車に乗り次のパーテイ予約をしただけでなく、経理部長はパーテイに参加の銀行支店長の勧める企画に安易に応じた。参加していた仕入先は会社の脇が甘いのを知り、今後の値上げを画策した。経理主任の笠間から見ればパーテイは資金が流出する傷口を広げるだけの結果しかもたらさないことが明らかであった。
4,崩壊の始まり
ある朝、凶報が到来した。社長が心不全で急死したとの知らせである。円安で輸入資材の高騰の中、過酷な交渉を担っていた心労からであった。
その月の支払いは売掛金の早めの回収ができたため乗り越えられた。しかしその先の資金繰りは出来そうになかった。
借入金の元金返済に加え、高騰した輸入資材費の支払いで資金は尽きる。経理部長が即金で支払ったパーテイ代などが原因で急速に資金量が減少していたため、人件費も支払えない状態である。
笠間はパーテイに来ていた銀行の支店長に掛け合ったが支店長は笠間の顔も目も見ないで「今回のご融資は見合わさせていただきます。ご理解ください。」との返事である。パーテイ会場での態度と全く違う冷たい雰囲気である。社長急逝により銀行は中小製作所の預金残高をチェックし、平均残高が急激に右肩下がりに落ち込んでいる事実を確認したに相違ないと笠間は思った。
人件費を払うため笠間はほかの金融機関も回ったが、平素からの経理部長の無能さをどの金融機関も知っていたため、社長の急死をきっかけにして態度は激変していた。頼りの社長が居なくなった会社の悲哀が身にしみた。
従業員の給与を払えないことは、従業員の生活危機を招くだけでなく、退職の引き金になりかねない。ひとりの退職が連鎖反応を起こす労務倒産の典型症状である。
「主任、何とかしてくださいよー」経理部長がのっぺりしたカオで近寄ってきた。笠間はモノをいう気にもなれない。お金を払う時は相手から愛想よくしてもらえるから得意な反面、危機に際しては全く役立たない。親戚であるだけで会社に置いておいた亡き社長を恨みたい気持であった。
2ケ月後、支払はできないまま経過し、銀行は同社の預金と貸出金を相殺した債権をサービサーへ譲渡する決定をした。また取引先からは取引停止の通知が連続して入った。
社長は「会社は従業員全員のもの」との考えで株式を従業員にも薄く広く与えていた。その結果、株主総会で意見がまとまらないまま時間だけ過ぎていった。
M&A専門会社から事前調査の申し入れがあったが、その結果は、過大な仮払金残高の存在が災いし、話は頓挫した。そんな会社を買収する企業はないことは笠間にもわかる。
結局、中小製作所は破産の申立てをすることになった。
笠間は取引先の経理担当役員の紹介で転職することができた。かって、その取引先に国税局の税務調査が入った時、笠間の会社との取引内容説明のため数回にわたってその役員と対話する機会があった。この時、この役員は笠間の実力と人間性を見抜いていた。この役員は今どき珍しい税理士試験5科目合格での税理士でもあった。苦労人であるだけに対面した人物の専門知識の確かさが一瞬にして分かったようである。
1年後、たまたま通りを通行中の笠間は、道路の向こうのハローワークから元経理部長が疲れた顔をして出てくるのを目撃した。笠間はわざと反対方向へ向かって後ろを見ることなく歩み去った。
<第1話 完>
学ぶ点<この会社の欠陥ないし弱点>
1,親戚を重用した結果、経理知識の乏しい浪費家を要職に就けたこと。
2,仮払金勘定を速やかに精算しないで放置したため本来費用となる支出額が計 上されないことから生じる名目利益に課税され、加重な税負担が原因で資金が 流出した。
3,株式を分散したこと。集中することで意思決定が早く容易になる。
4,社長に万一の場合をカバーできる組織的構えができていなかったこと。
次回予告:第2話が始まります。相続から争族へ。現代の世相とアタリマエニなった相続争い。
<短編物語>第1話 坂の下の泥沼:経営コンサルティング会社破産の時代 その3
前回までのあらすじ:銀行借入の元本返済が始まり、そのうえ浪費家の経理部長がした仮払金は累積する一方であった。浪費された仮払金は貸借対照表の流動資産の部に計上されているが資産の実体はない。資金は出てゆくばかりのところへ輸入資材は円安のためジリジリと値上がりしている。ここで借入金利が上がれば利益は無くなり会社は赤字になる。
3,蜜に群がる蟻のように寄ってくる人々
大パーテイは笠間の反対にもかかわらず実行された。費用150万円は即日払いされた。ホテルの下へもおかないもてなしで経理部長は上機嫌であった。ホテルの宴会担当はニコニコ顔で「部長さま、御社で定期的にこのような大パーテイをされたら如何ですか、割引しますョ」と揉み手しながら言う。案の定部長は「オオ、それは良いアイデアだァ、じゃ再来月にどうかね?」
横にいる笠間は資金が逼迫していることも知ろうともしないで即答する部長に、下手な大将テキより怖い、との格言を思い出して横を向くしかなかった。
そこへ近くにいた銀行の支店長が歩み寄ってきた。有名大学を出た支店長で部長はその大学の名前だけで支店長に心服している。「経理部長さま、当行では近く大学の経営学の先生による経営診断を企画しています。きっと御社のお役に立ちますョ。費用は100万円です。診断を受けられたら融資の条件で無理聞きますよ」と言った。横で聞いていた笠間には最後に支店長がㇶㇶㇶと歯の隙間から洩らしたような気がした。笠間はその音が本音であると感じた。
こうして蜜に群がる蟻のように寄ってくる人々に対し、脇が甘い経理部長は支出を戒めようともしないでOkを出し続ける。笠間はその部長の横顔に、愛想よい仮面の下にある自信のなさ、空虚さを見抜いていた。YESと言い続けないと立場がないと思っている。しかしテキはそこを攻め口に資金を吸い取ろうとする。この不況下、相手は売上を上げようと必死なのが能天気な部長にはワカラナイのである。
パーテイ会場には得意先も仕入れ先も参加していた。両者の表情は対照的であった。得意先の顔には「イヤイヤ付き合いで参加した、こんな内容のないパーテイしていて良いの?」と笠間には読めた。
一方、仕入先社長と専務の会話に笠間が耳をそばだてていると「ココは景気良さそうだから値上げさせてもらおう。よそからキツイ出血サービスの圧をかけられている中で助かるヮ、経理部長におべんちゃら言ってこよう。
こうして何の統制もなく支出のタネが積み重なってゆく。笠間は大学教授による経営診断は社長が断ると予想した。なぜなら以前、経営学教授による講演会があった時、社長が参加した。講演会から帰るなり「アホらし、時間無駄にした!何が大学のセンセーや!2度と行かん」と怒っていた。理由を聞けば当日の参加者は約100人で現役のそれこそ命がけで経営の第1線で日々闘う経営者ばかりであった。そのような経営者が揃った前で教授は気押されたようで初めの15分くらいは経営の話をしていたが、途中から株の話をしだした。実践を知らない学者が実戦の場にいる人々を前に経営の話ができなかったようである。
社長は「奴ら学者は安全地帯にいて世の中知らんコドモ相手に外国の本を紹介しているだけやろ、この手のセミナーには二度と行かん!」こんな社長であるから経理部長が安請け合いした大学の先生による経営診断は、空理空論と学者が嫌いな社長はキット断わると確信していた。
次回予告:
社長の急死 案の定、得意先から取引打ち切りの通告、銀行によるサービサーへの債権譲渡、節税策での株式分散によって意思決定できず。苦悶する笠間は、、、
<短編物語>第1話 坂の下の泥沼:経営コンサルティング会社破産の時代 その2
お知らせ:短編物語は第1話が始まりました。今後は概ね土曜日ごとに連載します。構想は第7話まで出来ています。週1回の亀の歩みですが急速に変わる経済情勢を織り込みながら進めます。
前回までのあらすじ:中小製作所の経理主任 笠間は自社の資金が急速にひっ迫してゆくことに警戒感を持っているが、上司で社長の親戚の経理部長は危機感がない。使途がわからない目的で会社の金を引き出し「これ仮払金にしておいて」が口癖である。コンパニオン大勢呼んで大宴会をしよう、、、と部長は言った。
2,資金の不安:金利高
「またか、、もう勘弁してくれよ、、資金不足が目の前なのに、、」経理部長の言葉に笠間は一人ごとをつぶやいた。
キャッシュサイクルは異常がない。営業資金は円安で輸入資材の支払いが多くなったことでの影響のほかに二つあると分かった。
1,不要ともいえる過大な銀行融資の返済が始まったこと
2,社長の親戚の経理部長による仮払金支出
社長は銀行融資の権限を経理部長に一任し、もっぱら輸入材料仕入が円安で原価高になるなか、製造工程の短縮に頭を絞っている。
経理部長は権威に弱く、銀行の言いなりである。銀行の言葉の裏を読もうともしないで当時は低金利とはいえ借入金を積み上げた。部長は会社の預金残高が自由に使える資金との認識で、負債の部を見ることができない。目の前のお金が自由になるお金と思う能天気な、危険な浪費家である。
笠間が「借入金は返さなければなりませんから、この辺で借入はストップしましょう」といさめても馬耳東風であった。日銀が利上げに舵を切ったため過大借入金が災いのモトになることが見えている。
そこへパーテイ好きであるから不要な費用が出てゆく。このような場面では社外の専門家である税理士などが一喝するべきところ笠間の会社には顧問税理士はいない。
以前には部長の大学の同級生でその大学の大学院に行った税理士が部長の推薦で顧問に就任したが決算の際に法人税の申告書がまともに書けないことが露見した。社内でも問題になり、なぜ申告書が書けないのかと社長も加わった会議で説明を求められたとき、その税理士は「私は大学院でアメリカのペイトン・リトルトンやドイツのシュマーレンバッハなど高度な会計理論と最高裁の税法判例を指導されました。指導教授は実務は知らないので申告書の書き方は教わりませんでした。教授の責任です」と。
叩き上げで、もともと学者嫌いの社長がこれを聞いて激怒した。「自分の努力不足を棚に上げ、仕事ができん理由を他人のせいにするな!その程度で資格貰えるのも問題だが、ウチは実務できん税理士に金は払わん。辞めてもらいましょ。」
その後、笠間が自分で勉強して自社の法人税申告書を作成してきた。なので顧問の税理士はいない。
中小製作所の営業利益率は1.2%である。国民所得の3倍近い借金の国の金利は今後も上がると思われる中、やがて2%を優に超える金利になれば当社は「営業損失」に陥ることになる。
社長の親戚に囲まれ、自分が対処できないもどかしさを腹のうちに堪えるしかない笠間であった。
<短編物語> 坂の下の泥沼:経営コンサルティング会社破産の時代 その1
あらすじ
笠間茂雄は中小製作所の経理主任である。夜間教室で経理を学び入社してからも勉強を積み上げたため殆どの実務は彼がこなしている。社長の信頼も厚い。社長は叩き上げのヤリ手で、這い上がってきた笠間とは気が合う。社長は評論家や学者嫌いで空理空論には耳を傾けず、現実直視で打つ手に狂いはなかった。会社は順調に成長してきたが、気がついたら役職者は殆どが社長の親戚で占められるようになった。中小製作所は負債の急増により資金繰りが急速にひっ迫してゆく。この時代、笠間の会社だけではなく、どの企業も負債に苦しみ、地方自治体も国も同じように負債の重さがこたえるのが明らかになっていた。
1,資金の不安:仮払金
「こうなったのはいつからだろう、、」笠間はデスクのPCに映る経理データを追いながらため息をつぃた。キャッシュフローの先行きの巡りが良くないのである。坂道を転げ落ちるような数字の流れを見ていて首筋に冷たいものが走るのを感じた。
経営計画の通り利益は計上できている。しかし資金が追い付かないため予備の預金に手を付けるのはもはや時間の問題である。
笠間は原因を探るため、いくつか気になる自社の経理要点をチェックしてみた。キャッシュサイクル*などで赤信号が灯っているが今のところ決定的な原因とまでは思えない。
(*キャッシュサイクル:売りの回収速度と買いの支払速度を比べ循環を見る)
たまたまニュースで「経営コンサルテイング会社が破産した」報道をみた。ニュースのコメントでは「経営のプロが破産するとは本末転倒!」などと批判的に論評されている。同社は「経営コンサルテイング会社」との商号ではあるが、実際の業務はコロナなどのさいに政府が出す「補助金」を代理申請するのが仕事であったと解説されていた。
笠間には、好調な時に急激に事業所を増やし、従業員も増員して固定費がイッキに膨らんだが、最近の政府の方針転換で補助金が急激に少なくなったため「代理申請」の仕事がなくなり、肥大した固定費が破産の原因であると読めた。
ウチにあてはまることはないか。思案をめぐらす笠間の心は深く沈んでいった。
そのとき隣室から「こんど新しい豪華ホテルが駅前にできたから、そこでコンパニオンを大勢呼んでパーッと大宴会をしようや!」という経理部長の声が聞こえた。経理部長は社長の親戚である。
<続>
大変化・信じるもの・情報の真贋
来年からの大変動の兆しがいくつも出てきています。制度にほころびが目立って来ました。
一番信じられるのは自分です。周りに振り回されないで行動し対処しないとつまずきます。
シンプルに向かうための二つの関門を想定します。
1,会社清算前 整理手続
2,相続税申告前 整理手続
あらましの説明
身の回りで「それは本当になくてはならないものか」との問いを自分にしてみたばあい、不要なものに気づくことが多いです。
そのなかでも大きな仕組みで、これまでそれがあることを当たり前にしてきたものが案外気づきにくいものです。
その1:役目を終えた「会社」
どうしても会社の形態でなければなりませんか?会社であるため複式簿記の会計が必要になります。税理士や会計士への顧問料の支払いも生じます。
一旦、会社の形式をやめても困ることがないか、考えてみましょう。
不要な会社は淘汰される流れです。今は会社の解散・清算をするかたが多くなっています。会社のまま残しておいてさほど役にも立たず利益も生まないケースが多いです。
日本経済が上向いていた1970年 大阪万博から55年経ちます。事業を法人にするのはそのころのトレンドです。
今はどうですか?人口減少、教育の劣化から採用人材の質に問題があります。まして零細企業に人材が来る確率は低いです。
平成18年を境に採用人材の質が悪くなっています。私が運営していた会計事務所でもそのことは顕著でした。一緒に仕事をできるレベルではありませんでした。いまはもっと状態は過酷でしょう。
その2:銀行借入金
一つの考えとして、今仮に相続が起こったとします。資産がどれくらいあるか調べなくてはなりません。当たり前のように銀行に約束通り返済してきましたが、その借金はあなたの資産で返済可能かもしれません。
税制を初めドンドン複雑になってゆくばかりですが、その流れに同調しないで立ち止まってみましょう。
次回に続く
今の時代こそ先の予見が必要
Newsの犬式部と猫納言の対話のように見通しは良くありません。
確実な変化が来ています。予兆から先行きを認識し、行動に移すためには「予見」をしっかり持つことです。ここが無いと行動の踏み込みにパワーが出せません。全く違う方向へ流されるように日々を送ることになりかねません。
予見に取り入れる、これまでと違う点
・<固定資産重視ではない>
不動産やモノが重要で流動金融資産(株式投資含む)は2番手でよい=ハズレ
→すぐ自由に使える金融資産が一番。モノや不動産は最小限に。
・<安易な借入金が身の破滅>
借入できるのも地力のうち。借金して高級品・高級車で身を飾る=ハズレ
→どうしても必要なものを得るための借入金は、返済の計算が成立てばとも
かく、計算が立たない借金は先々苦のタネに。
・<スキルや技能・技術なければ困難に>
学ぶなら、人がうらやむ有名校・名門校=ハズレ
→なりたい自分になるための必須のスキル、技術が学べる場へ進みましょう。
人口減で我が国の大学は間もなく定員不足で崩壊。そうならないために生き
残るため広告しまくり、もはや商売になっています。
その卒業証書ではメシは食えません。
背景の説明
・<格差を生む税制と似非有閑階級の出現>
贈与税が非課税になる特例に住宅取得等資金贈与の非課税特例2500万円、教育資金贈与の非課税特例1500万円、結婚・子育て資金贈与の非課税特例1000万円があります。私の先輩税理士は「ドラ息子、ドラ娘育成税制」と呼んでましたがこの税制と金融緩和の効果で、手っ取り早く欲しいものが手に入るようになっています。
幸せいっぱいで、辛抱という言葉が無縁な人々が似非有閑階級になってゆきます。しかし資金も、資金を勝ち取る気概も底が浅いためこれからの大変動で却って崩壊が早い層になるでしょう。
貧しい時代は生活することに必死で、その中で鍛えられました。豊かな時代に育って欲しいものはすぐ買えるようになり、その上に見栄と欲望がメデイアであおられ薄っぺらな、上辺だけ、見てくれだけを求める時代ですが、この次には自力で稼げないうえ特別な他より秀でた技能がない層に経済の変化が影響してきます。良い学校を出て大きな会社に勤めるその先はウリモノを持たないと難局が続きます。
破産が増えています。裁判所のお世話にならない実質破産や買いたたかれるM&Aという形で事業は消滅してゆきます。あるいは外国資本が入って支配します。
つい最近までは貴族政治家はヘタレの世襲でも、市井の人々は賢くしたたかでした。しかしその後の世代は、教育の劣化の影響が出てきます。
この傾向には負のエネルギーがありますから止まりません。早く事業を見切った方が傷が浅い、会社は解散・清算したほうが残るものが多い、と申し上げる根拠はここにあります。
来年で、敗戦から80年。敗戦後の占領政策の毒が敗戦から3世代目の今の30歳未満世代に顕れてきます。
長い間、事業をされてきたかたの場合
この記事は長い間、中小企業を経営されてこられたかたがたに税務と会計の分野でお役に立つために書いています。
会社の閉じ方が第一番に来るのではないでしょうか。「閉じ方」の意味には代替わりも含まれます。また会社の解散・清算に至る場合もあります。
1,手順
<会社ないし事業>
①会社の余力、成長可能性、主要商品群の人気度を見ましょう。
②資産負債の中身をチェックする。
③固定資産の劣化度を見る。
10年先を見ましょう。今は良くても10年先はどうでしょうか。
またこれまで赤字で苦しんでこられた場合は会社を清算したとして、いくらのお金になるのかも試算しましょう。顧問の会計事務所の助けを借りるのも良し、拙著「事業家Q奮闘記」のQ社長のように顧問税理士が頼りにならないと判断し自分の手で会社の決算書を見直すかたもあるでしょう。
<個人>
①資産負債の一覧表を作成します。
②10年先は様相がどう変わっているのか予見できるはずです。
③投資について利回りをチェックしましょう。捨て金になっているものは速やかに
処分するのが得策です。塩漬けの株式は月足の25日移動平均線と今の株価を比較しましょう。証券会社ホームページの「テクニカル」欄の一目均衡表やボリンジャーバンドを補助的に用いて継続して持つか、見切るかの時期を考えましょう。他人を当てにしないで自分で勉強して決断します。自分で見切ることに慣れてくれば、どうすれば良いかが見えてきます。
④不動産は市街地以外は早々と処分します。市街地以外の価格は原則上がらないと私は見ています。
⑤相続税:かかる、かかからないかを自分で①の一覧表を参考に計算してみましょう。その時に拙著「Oh!相続税申告書が自分で作れる」が役立つかもしれません。書店では同じような本が並んでいます。税金の不安や負担する税額に比べて高くない費用です。惜しまずご自分の波長に合った本を手許に置き勉強しましょう。
或る資産を所有する人の対策
今回は高齢化が進むわが国で特に注意する点に触れます。それは株式です。上場会社の株式ではありません。非上場の中小企業に株式を持たれている場合の注意点です。
<質問です>
Q1:株主であるあなたはその会社の経営者ですか・・・yes/no
Q:ハイの場合、いつまで事業をされますか・・・決めている/いない
Q:後継者(または後継者候補)はおられますか・・yes/no
Q:株主名簿はありますか・・・・・・yes/no
Q:株券を発行されていますか・・・yes/no
以上は入り口の質問です。
Qに沿って解説します。
<想定される事態>
経営者でいつまで事業をするか決めていないうえ、後継者もいない。そして株主名簿がなくて誰が株主か明らかでないうえ、株券を発行されている場合は最悪です。
どうしてかと言いますと、経営者のあなたに急なことが起こって後継者もいないのでは会社は空中分解しかねません。そのうえ株主が何人もいて連絡も取れない、株券が発行されていると誰が支配的なオーナーかも不明であるため会社の継続・解散などを決めることができません。
<対策と確認するべき資料>
1,株券の所在を確かめる<株券を持っている人がオーナーです>
2,定款の定めを確認する<株券不発行になっていないか>
3,司法書士さんに依頼して株券不発行に変更する手続きを依頼する<会社の成立時期によって適用規定が異なります。大事な点なので専門家に依頼しましょう>。
4,念のため法人税申告書別表2を確認する<株主の分布が分かるかもしれません>
投資と借入金・株式投資-現物か信用取引か・有限会社は困難・会社経営と認知症
税理士をしていますと相談ごとに備えるため多くの情報を得る必要があります。またZoomでの事例研究も欠かせません。そんな中で注意したい点をご案内します。
1,投資と借入金
昔から銀行さんが勧める節税法ですが借入をテコにする方法があります。利益が蓄積して相続税の株式評価額が高い場合、持株会社を作って銀行から借入し、そのお金で現在の株主から株を買い取る方法です。
問題はその借入金の返済金はどこから出せるかの点をしっかり見極めるとともに完済までの期間、山あり谷ありの長い年月を会社が耐える体力の有無をチェックしておくことです。ツケを後に回せば後の世代から恨まれます。
2,株式投資:信用取引か現物か
信用取引とは証券会社から借入して株式投資することです。利益が出る場では儲けも大きくなりますが逆もあります。私も勉強を兼ねて株式投資しますが現物しかしません。想定外の経済状態になり急落してしまうリスクまで負いません。人間、欲の肥大が苦を呼ぶことは避ける方が賢明かと思います。
投資に際しては株主を調べましょう。四季報や有価証券報告書で分かります。私はアメリカ株には投資しません。これから尚更です。私見ですが下がってゆくでしょう。債務大国ですから。なので日本株しか買いません。日本の会社でも株主は日本人とは限りません。日本の会社と言っても外国資本にM&Aされている場合もあります。外国の経営者も多くなっています。彼らは視野が広く優秀なのだと思います。いろいろ考え方があります。私は日本人の経営する会社が今は好みです。
3,有限会社の会社じまい
会社を閉じるご相談もありますが、もう役目を終えた会社が多いです。したがって費用をかけないで閉じたいと思われるのは分かりますが、株式会社と違って有限会社は手間がかかります。解散の決議→公告2ケ月→清算結了の順序です。費用も安くはありません。これから起業するならともかく、閉鎖するのにこんなに時間もお金もかかるのですか?会社作るときは有限会社の方が簡単だったのに、、と言われます。もうこれからは有限会社は設立できませんが有限会社閉鎖の場合は先のコストも見込んでおく必要があります。
4,会社経営と認知症
中小企業の特に家族経営の場合、株主や経営者が認知症にかかると法律行為はできません。そのうえ株主が分散している場合には認知症リスクも連動して上昇します。
この点については後々少し詳しく触れます。
以上が注意点です。
旧態依然・前例踏襲から少しでも変化と挑戦へ
相続と投資・税理士・固定資産
富裕層ではない普通の生活者が資産の形成に励んでもやがて相続の時期が来ます。今回は人間である以上避けて通れない相続と5つの切り口がかかわるところについて解説を進めてゆきます。
分かりやすくできるだけ専門用語を使わないようにします。必要な場合は*印で文節下に記します。
<投資>と借入金:相続対策
金融機関から相続対策のため借入して賃貸住宅を建てると建物の相続税評価額は自用の場合に比べ下がります。なぜなら借主の存在があるため家主は自由度が下がるからです*1。その分、相続税の評価は減少するとともに、土地の評価も自用に比べ借主の存在が自由さに影を落とし*2評価が下がります。評価が下がるだけでなく借入金が相続税で債務として控除されるため二重に有効であるとして、世間では相続税の節税策として勧められます。
*1:これを借家権と言います。
*2:その土地の評価区分は貸家建付地になります。
ここで良く考えましょう
1,人口減少と供給過多の現実のもと空室をどの程度見込むのかが重要です。銀行がお連れになるハウスメーカーのプランでは空室率5%などのものがあります。これでは将来、空室で悩むうえ賃料の値下げをしても入居者が入らない危険があります。甘い空室率には要注意です。
2,借入金は返済するに連れ元金は減ってゆきます。最初は多額の債務控除ができても時間が経つほどに残債が減るため債務控除される額は減少し相続税の節税効果は減ってゆきます。借主が長生きされ返済が進んだ時期には、老朽化した建物が残るだけです。次世代はだれも継承を嫌がるでしょう。現金なら喜びますが。
土地価格も下がるなら、別に借入金をしなくても相続税は下がります。結局これまで何をしてきたのか、利息を支払った結果しか残りません。
誰が一番儲けたのでしょうか?金利を得た金融機関と建設会社です。相続税が高いので困っているとか根拠のない風説に影響されないで税理士さんに「ウチの相続税どれくらいになりますか?」と聞かれたら良いのです。税理士以外の金融機関や不動産会社などでもこの手の相談は受けていますが自社の利益になるように誘導される懸念があります。中立な存在である税理士への相談が良いでしょう。
<税理士>を選ぶこと
相続の相談ができない税理士先生もいます。相談の前に準備した質問をして相手の力量をチェックしましょう。さもないと相談して不満足な答えでストレスがたまるうえ相談料の請求がきます。税理士にはいくつもの入口があり、得手、不得手があります。かかわりを持つ前に良く考えましょう。*3
*3:ご参考になればと紹介します。私の近刊「Oh!相続税申告書が自分で作れる」の125頁~129頁にこの点につき分かりやすく書かれています。
<固定資産>
上の例のような不要な固定資産である建物を建てて喜ぶ存在があります。
建設会社のほかにもう一つあります。固定資産税をかける市町村です。
市町村にとっては固定資産税は安定した税収源ですが最近は過大評価しているとの訴えが相次いでいます。
若者の借入金・年配者の会社仕舞い・悪質M&A
景気悪化のもと、先々困らないために投資(借入金)、会社、株主、固定資産、税理士の5つの切り口からの説明のうち初めの借入金と会社に関してポイントを述べます。
<若者の借入金>
一番気の毒なのが若者で借入金を抱えている人たちです。大学に進む時に奨学金の貸与型を借りて卒業後に給与から返済してゆく途中で、就職した会社が合わない、パワハラがあったなどで退職し、家賃など生活費のためにアルバイトをして再就職先を探すケースが多いです。諸物価値上がりのうえに奨学金の返済があるためやむを得ず消費者金融のカードローンで不足分をしのぐことになり、そのうち2つ3つのカードで借入、返済を繰り返すうち多重債務者になってゆきかねません。志望する正社員での就職も見つかれば抜け出せるのですが。
<年配者の会社仕舞い>
思い切って会社を閉じる決断をされる場合が増えてゆきます。多くは顧問税理士さんがついておられ決算・申告のさいに相談され計画的に不良資産の処分、債務整理に進まれ「解散」決議から「清算→結了」に行かれます。
問題は相談する税理士がおられない場合です。会社である以上、決算に際し資産と負債の比較などもされないまま債務超過になっており解散ができない、いわゆる手遅れの場合もあります。残る道は法律事務所に駆け込み、破産手続きに入ります。毎期、会社の会計を見ておられれば事前に回避する方法もあるところ最悪の結果になります。
<悪質M&A>
税理士をしていますと多くのM&A会社からの広告宣伝が来ます。中には質の良くないM&A会社もあります。
悪質M&A業者を排除するため、経済産業省は令和6年8月30日に「中小企業のM&Aに関する指針」を改訂しました。会社の売手は借金が多くて会社を手放したいところですが、金融機関からの借入の際に経営者として連帯保証をつけている場合があります。これを解除しないままM&A契約に進むケースがあるようです。売り手にはその後も連帯保証債務が残ります。注意しなければなりません。
<まとめ>
二宮尊徳翁は天候不順から凶作と大飢饉を予測し準備を進められ農村を救済されました。今は情報が行き届いていますから各自が情報の「真贋」を見定め自己の指針にできる時代です。
目配りが必要な点は
・国の借金は膨大なので今後も増税は続く。言い換えますと凶作と飢饉がこれからも続くので備えが大事です。見栄からの消費は不自由への道。
・資産があることとキャッシュが不足しないことは違う。自由になるキャッシュが大事。
・資産の中でキャッシュにつながらないものはないか?
・相続でも、会社仕舞でもテキは内にあり。相続人間の争いのタネや株主間の不調和は早めに解消の手を打ちましょう。
・固定資産は固定資産税のモト。固定資産税は市町村のメシのタネ。手を打たないと生き血を吸われ冗税を払い続けることになります。