税務会計 フォアユー パートナーズ Do-ing

新技術がもたらす税務と会計の大変化 AI・RPAの先にあるもの

第113回 納税者の品格と税理士の立場・・・15

2020年7月8日

(問題の制度設計・・・9)

 

 この事例に「問題の制度設計」を当てはめると、賦課された重加算税は税理士が「十分な情報収集」を行わなかったゆえ税理士が負担することになるだろう。

 

しかし世の中の現実は単純ではない。

 

 本事例では、現金売上を除外して机の引出しに入れることは社長と工場長夫妻の間では合意があったと裁決書からは読取れる。除外された金額は1700万円と税務調査で分かったが果たして本当に1700万円なのか。

(この裁決例では以上に述べた事実を超える内容は明らかではないので、此処からは、この事例を検討の題材として使用する。審判所で争われた事例からは離れる。関係ないことをお断りしておく)

世間でよくある事件を当てはめてみる。

 

(法人の組織の階層と税務申告に表れた「意思」の存在する場所)

 工場長が日常実務をしているから工場長はXXXX万円を引出しに隠し、工場長の妻は工場長に内緒でXXXX-Y=ZZZZ万円の金額が隠匿額と考える余地はある。

 

 社長の認識ではWWWW万円の売上を除外したつもりが工場長の手でXXXX万円に減少し、最後は工場長の妻が抜き取ってZZZZ万円になることも考えられる。WWWW>XXXX>ZZZZである。本事例ではZZZZすら税理士は知らされていない。

 

 零細企業で夫が代表者で妻が経理を担当しているケースで夫に内緒で妻が売上から抜き取るケースは稀にある

 

 芸能人や力士の脱税では「税理士にすべて任せてあった、ワタシは知らない」との答えはメディア報道の定型である。しかしこの場合、芸能人や力士がゼイキンの処理方法を自分で画策することは考え難い。プロダクションや秘書が芸能人などから委任される場合や、一任されているうちに出来心が生じる場合も想定できる。そこへコンサルタントが介入した結果の金額が「先生この金額で申告をお願いします」との口上で確定申告書の作成を依頼されるのではないだろうか。

 

<次回予告>

 納税者の意志が税理士にストレートに伝わる(単純な)例であれば税理士が「十分な情報収集」をしなかったことが原因で税理士に加算税を賦課する論理はあり得ないではない(後述するが「税」を納税者本人に賦課しないで国の手で税理士課税に転換することは税を負担する者を勝手に変更することになり別の問題がある。税理士が悪質な処理をしたのなら税理士には税理士法での制裁と依頼者からの損害賠償が待っている。ここで償いは済むところ、国が「本来の納税者の加算税を免除し、同額を税理士に付け替え新たな納税義務者を「創造」することが問題になる。

第114回 納税者の品格と税理士の立場・・・16

2020年7月9日

(問題の制度設計・・・10)

 

前回は個人事業や芸能人などを例として見てきた。では会社の場合はどうか。

 

 会社内部での不正は税理士実務ではしばしば遭遇する。従業員による売上の着服、売掛金のラッピング、預金のカイティング、在庫の横流し、経費の流用がよくあるパターンである。税理士業務では特別に契約する場合以外はこれらの防止は業務範囲外である。但し会計組織において問題が起こらないように(例えば記録・保管・承認の分化などの)改善の提案はする。なぜなら、筆者は過去に相当の注意意義務を欠いたとして損害賠償請求はされなかったものの、顧問契約は取り消された経験があったため、私の場合はそこまでの目配りをしたことを文書にして残すことをしてきた。

 

 余談になるが米国ではFraud(経理不正)の防止と摘発は会計専門家の一分野である。CPE(継続研修)ではかなりの研修時間が投下され年に数回、Fraudのカンファレンスやシンポジウムが開催されている。

 

 以上のうち納税額の減少につながるのは売上の着服である。

法人の不正は3パターン考えられる。

 

パターン1:経営者が売上を除外した場合

パターン2:経営者から経理を任された人物が(経営者と共謀して)売上を除外した場合

パターン3:経営者から経理を任された人物が(経営者に知らせないで)売上を除外した場合

 

 法人とは称しても大会社であれ零細会社であれ法人自体が不正行為はしない、できない。法人がレストランで食事できないのと同じである。行為の主体は法人組織であれ(個人事業は勿論のことであるが)常に人間である。

 

 「問題の制度設計」を当てはめて税理士に加算税を課すことができると考えられるのはパターン1と2について税理士が感知できるだけの手掛かりがあるのに確認を怠った場合である。手掛かりすら知ることができない場合は情報収集できなかったとしても理由があるので対象から外れる。まして法令の動向やリスク説明については接点すらない。

 

 パターン3は取締役の注意義務が問われるのであって、会社の問題であり、税理士が「情報を収集」する範囲外である。

 

 「税理士の情報収集が不十分」である場合の該当例は少ないのが結論である。

 

 以上のように、現実に該当する例が少ないとしても、「税」を納税者本人に賦課しないで国の手で税理士課税に転換することは税を負担する者を勝手に変更することになり別の問題がある。税理士が悪質な処理をしたのなら税理士には税理士法での制裁と依頼者からの損害賠償が待っている。ここで償いは済むところ、国が「本来の納税者の加算税を免除し、同額を税理士に付け替えて新たな納税義務者を「創造」することは問題である。

 

<次回予告>

 脱税の場合と過少申告加算税や重加算税が課される場合を比較して検討する。脱税の場合の制裁対象には代理人が含まれる両制度の違いから「問題の制度設計」のほころびを検証したい。

第115回 納税者の品格と税理士の立場・・・17

2020年7月10日

(問題の制度設計・・・10)

 

(二つの制裁 1.逋脱犯の刑事罰と2.仮装隠蔽の行政制裁:重加算税)

1は犯罪を構成する。偽りその他不正行為をした場合である。法人に対するこの罰則を定めた法人税法159条では法人の代表者だけでなく「代理人」も処罰の対象に加えている。

 

 刑罰であるから「故意」が要件である。具体的には以下の3つの認識があることが犯罪の要件である。

   ・その法人に納税義務があることの認識

   ・その法人の業務に関して脱税を行うとの認識

   ・不正行為の認識

 

 代理人の場合は、会社経営者と共謀した場合や教唆が該当するだろう。会社経営者と共に犯罪者になる。税理士法での処分もされる。

 審判所で争われた事例に当てはめれば税理士は共謀していないことは明らかであるから法人税法159条の処罰はない。

 

2、仮装隠蔽を行ったことで行政制裁を受け重加算税を課される事例では制裁の対象は納税者法人だけである。仮に税理士が積極的に仮装隠蔽に関与した場合は税理士法の制裁があるが重加算税を会社と共に税理士が負担する規定はない。

 

 現実にこの税理士は蚊帳の外であり損害賠償の対象にすらならない。

1,2に共通するのは、税理士が1や2に該当するか否かが「問題の制度設計」に比べて比較的分かりやすい点である。

 

(問題の制度設計)

 「十分な情報収集と申告内容の説明が不十分」である場合は加算税を税理士に課し、その代わりに納税主体である会社には加算税を免除するとの「問題の制度設計」では積極的に過少申告に関与したか、していないかが判然としない場合でも、関与実態ではなく「適正な申告書であったか」否かの結果だけで判定し、さらに「申告内容の説明やリスクの説明をしたか」どうか、という測定不可能な基準で納税者の加算税を免除し、税理士に加算税を課すと言っている。

 

 積極的な不正関与、共謀の有無などの要素を排し適正申告かという外形の結果と「(決算内容やリスクを)説明した、聞いていないとの水掛け論になる曖昧な基準しかないことは新たな争いの原因を作りかねない。

 

 残る問題は

1、何が適正申告なのか、

2、どこまで説明したら税理士が免責になるのか、

 税理士は説明したといっても聞く方の法人側では聞いていないと言うであろう。自社に掛かる重加算税負担がなくなるならば、渾身の智恵を巡らせて「聞いていない」と強弁すると考えられる。

 

 そもそも複雑な会計と税法をいくらワカリヤスク説明しても理解できない経営者が多い。聞くふりだけする経営者も多い。人間は理解できないことは「聞いていない」と思うのではないか。それも申告して数年(除斥期間5年までの)経過しての税務調査において明瞭な記憶が無いのは自然かもしれない。

 

<次回予告>

 税理士は自己を守るには説明を録音しておくことでデフェンスするなど、依頼者との信頼関係に水を差す不愉快で不要な負担が生じるだけでなく、悪質納税者は税理士の足もとをすくう方策を考えるかもしれない。「問題の制度設計」が申告納税制度において有効な制度なのか否かを検討する。

第116回 納税者の品格と税理士の立場・・・18

2020年7月13日

(問題の制度設計・・・11)

 

(行政制裁を納税者ではなく税理士に課すことの問題点)

 加算税は申告秩序維持のためである。対象は納税義務の違反者である。「これにより納税義務違反の発生を防止し、もって納税の実をあげようとする行政上の措置」(国税通則法精解669頁)と立法当事者が説くように納税義務者があくまでも対象である。

 

 仮に税理士が無知な納税者に過少申告を吹き込んでも重加算税の対象は納税者であり、納税者に隠して税理士が勝手に過少な申告書を作成しても加算税の対象は納税者である。

 税理士がこれらの行為をしたことは納税者と税理士間の争いを生じても納税者に替えて税理士に加算税を課すことは筋違いである。いうまでもなく税理士には税理士法上の処罰がなされる。

 

 

(逋脱犯の刑事罰と加算税の違い)

逋脱犯が成立するためには以下の4要件が必要である(経済刑法研究866頁)

ア:誰が主体か

イ:偽り不正の行為が実行されたか

ウ:税を免れたか

エ:行為(イ)と結果(ウ)の因果関係の認識があるか

 

 裁決例に当てはめてみればアは会社代表者であり、一切を任されていた工場長並びにその妻も該当すると考えられる。工場長やその妻は代表者が納税義務者であることの認識と机の引出しに売上を隠すことは脱税を行うとの認識があると考えられるから共犯になる。税理士にはァからエはあてはまらない。

 

 それと重加算税の場合は「計算の基礎となる全部または一部」について仮装隠蔽することが要件(国税通則法68条1項)であり「その客体は益金、損金または個々の会計事実である」(経済刑法研究863頁)が、逋脱犯の場合はその法人の事業年度の所得を一体不可分として逋脱罪が適用される。

 

 こうして全体を一体として見れば、代理人にも適用される逋脱犯が適用されるのは会社代表者、工場長並びにその妻であり税理士は射程外である。

 

 以上のように加算税・重加算税は納税義務者にのみ適用され、税理士に課税を付け替えることは趣旨から外れる。また代理人にも適用される逋脱犯の刑事罰は厳格な構成要件を当てはめれば、この税理士は代理人の立場にすらならない。

 

 裁決例から離れて一般的に見れば、税理士が積極的に脱税指導をした場合でも重加算税は課されないが、逋脱範に該当することは考えられる。要するに犯罪を構成するに至らない過少申告のばあいの加算税を税理士に課する理由は見当たらない。

 

 税理士に加算税を課す論理が通るならば、逆に税理士が説諭して偽りの申告を改めさせた場合に税理士に国が報償金を支払うことに「論理的」にはつながってくる。考えられない話である。

 

どの角度から検討しても税理士に加算税を付替えて課する道は見えない。

 

<次回予告>

 そろそろ、まとめに入ります。今月中旬にこのシリーズは完結し、少しお休みをいただいてから「数字が語る事業の潮時、変わり時」のタイトルで7月31日に再開します。コロナで変わってゆく先行きに焦点を当てます。 

第117回 納税者の品格と税理士の立場・・・19

2020年7月14日

(問題の制度設計・・・まとめ)

浮かび上がった問題点

 

1、科学的な行動と情緒的な行動

 

ァ:納税者からの情報は情緒的であり科学的とは言えないことが多い

 依頼者から税理士に与えられる会計情報は科学的な正確さや真実を反映するとは限らない。会社の代表者が意図をもって会計を歪めることはよくある。歪める意図があるかないかの違いだけであるが不正確であることは否めない。歪める意図の底には嫌税感がある。

 

 会社の従業員が意図をもって自己の利益を図るため(図利目的)に情報を歪める場合もある。別に意図がなく単なるミスで事実を反映しない会計情報が税理士に提供されるケースもある。

 

イ:税理士は情緒的な会計情報に科学的な態度で接することが要求されている

 この場合、税理士が科学的に事実が反映されているかを確認するには障害がある。

その障害とは、委任「契約の限界」である。納税者が過少申告を貫徹する意思があれば、税理士が要求する資料の提供を拒むことは容易である。このような場合に税理士はそこで行動を停止するか、契約を解消し、関与を降りる選択しかない。

 

 行動を停止する場合は更に二つに行動の選択が分かれる。一つは手を尽くしたが依頼者から事実を確認する資料が入手できない場合や、回答を得られなかった場合にその事実を書面に記すことと、書面に残さない道である。

 

 書面を作成してもその内容に関し依頼者の一筆を取る場合と、一筆がない場合とで後々に紛争が生じる確率は違ってくる。一筆を取っておく場合は紛争が起こる確率は少ない。

 

2、裁決例の税理士の行動は科学的であったか

 

 言うまでもなく科学的ではない。与えられた資料に対する確認ができていない。複式簿記が持つ複眼処理を生かした網羅性の確認もしていない。経営の姿が会計に正確に反映されているのか、真実性が損なわれていないかなどの視点はこの税理士の行動からは窺えない。

 会計に対する姿勢は大きな分岐点である。うるさいことを訊かれたくない納税者は「情緒的」にこの姿勢を嫌う。経営実践が会計に反映されているかなど科学的なことは考えさえしない。あるのは損得という情緒である。このため税理士も行動停止になりがちである。まして確認文書に納税者にサインさせることも一苦労である。

 

こうして過少申告の原因は霧に包まれる。

 

要約

 税務署員がその権限で事実の解明にメスを入れることができるのに対し、税理士は、依頼者との合意の枠内でしか事実には迫れない。

 この意味から、一言で言えば申告書の基礎データは依頼者の責任である。監査法人の監査報告書には冒頭に「財務諸表は経営者の責任であり(financial statements are the responsibility of the Company management)、監査人の責任はこれらの財務諸表に関し意見を表明するものである(Our responsibility is to express an opinion)」と明確に責任の所在が分けられている。米国会計士業界が100年に亘って訴訟で苦労された結実がこの一文に凝縮されている。

 

 税務申告書を作成することは「監査」のような第3者的な立場ではない。税理士は納税者の代わりに申告書を作成する。原資料が(歪める意図の有無は脇においても)誤っている場合の依頼者と税理士の間の責任は明確ではない。

 

<次回予告>

責任の所在が明確でない中で加算税を税理士に付替えすることについて見てゆきたい。

第118回 納税者の品格と税理士の立場・・・20

2020年7月15日

(問題の制度設計・・・まとめ2)

 

 問題の制度設計が税理士に要求する「情報収集」に加え、「課税実務の取扱いを調べたり、裁判例を調べたりすること」や、「依頼者に対し内容の説明やリスク説明をすること」は税理士によって(程度の差こそあっても)実施している場合と、対照的にTAINSで開示される裁判例のように全くしないで事務員任せにする例もある。

 

 一方依頼者側では、意図をもって情緒的な会計データを出す依頼者にとっては「問題の制度設計」が税理士に求めるような内容説明やリスク説明は形式の世界であり、内実はない。税理士が用意した内容説明のペーパーは顧みられることなくゴミ箱行きであろう。シュレッダーにもかけられないかもしれない。その内容が事実でないゆえに切り刻む必要すらない。ゴミなのである。内実がないところにリスク説明をしても聞く方は馬耳東風である。

 

(裁決例の税理士の場合に当てはめる)

1、裁決例の税理士はリスク説明も内容説明もしていない。そのような場は想定すらできない。勝手に売上げを追加計上した税理士と、税理士に隠して売上を除外した依頼者法人の双方に対話は成立しない。会話があるとすれば、キツネとタヌキの対話でしかない。

 

 要するに歪んだ会計情報を税理士に提供する依頼者に対して「問題の制度設計」が内容説明やリスク説明を税理士に要求してもカラ舞いなのである。

 少し有効なのは、意図なく(不十分な)会計情報を提供した依頼者に対しては、気づかなかったミスを知るきっかけになって、誤りの事前是正の機会ができるため必要であろう。

 

2、税理士を騙せば税務署も騙せると考える依頼者がいる限り、加算税の負担を税理士に付け替えることは無理である。

 

 「問題の制度設計」を唱える人物(大学教授)には海千山千の納税者のナマナマしい姿が視野に入っていないのかもしれない。

 

(裁決例に関連して詰めるべき、残る問題)

1、加算税の本質

 問題の制度設計では、この税理士が加担していたら税理士に重加算税を課し「納税者法人は重加算税を免除する」と文脈上読める。

ア:加算税を併科するのでなく本筋の納税者を加算税の賦課から免除する理由は何処にあるのか?悪質な税理士が納税者に入れ智恵して過少申告をした場合でも税理士に加算税を負担させたら、主人公の納税者法人は免責になる理由は何か?

イ:逆に、税理士が加算税を身代わり負担する道理と法律上の根拠はあるのか?

 

2、会社経理の性格

 更正処分された1700万円は経理の修正を要件とせず法人税修正申告書別表4、別表5で所得に加算し、貸借対照表(B/S)勘定に影響しない場合(認定賞与などがこれに該当する)は受入仕訳を計上することはしないがB/Sに関連する場合は受入仕訳が必要である。過大申告の2000万円は「修正の経理」を必要とする。

 売上高と所得の過不足をもたらした不足額1700万円と、過大額2000万円は共に会社経理上に反映しなければ終息しない。このことは「問題の制度設計」が税理士に要求する必須要件の及ぶ限界を示しているのではないか?

 

<次回予告>

「問題の制度設計」が税理士に求める要件の適否を上記の?ごとに詰めてゆく。

第119回 納税者の品格と税理士の立場・・・21

2020年7月16日

(問題の制度設計・・・まとめ3)

 前回に「問題の制度設計」が示す内容を裁決例を題材として検討した場合に「残る問題」として3つの疑問点を挙げた。

1,2は加算税の性質から考えるものであり3は会社の経理から問題を詰めようとする。

 

1番目の疑問点

 重加算税を納税者法人に課すことに替えて税理士に課すことで、納税者法人が重加算税を免除される理由は何処にあるのか?

 

2番目の疑問点

税理士が納税者法人に代わって重加算税を負担する道理と法律上の根拠はあるのか?

 

3番目の疑問点

 納税額の過不足は最後は会社経理に反映される。会社経理の主人公こそが重加算税負担の原因を作った人物ではないか、税理士は主人公か?

 

以下に結論を示し、次にその理由を記す。

1、結論:納税者法人が重加算税を免除される理由はない。

理由:重加算税が課された原因は1700万円を隠蔽したからであり、その行為は当該法人のした行為に他ならない。この裁決例では税理士は蚊帳の外であったが、たとえ税理士が積極的に売上除外を提言し除外行為に参加したとしても納税者法人が重加算税を免れることはない。事例として取締役と監査役が会社代表者に報告せず隠蔽していた場合でも重加算税は納税者法人に課され取締役や監査役に課されることはない(国税通則法精解673頁)。代表者は会社業務に関する一切の権限を有する(会社法349条4項)から当然の帰結である。

 付帯税が本質である重加算税は本税(本例では法人税)の納税義務者付帯して課される。米国では不正に過少申告した場合、納税者だけでなく税理士にも千ドルまたは申告手数料の50%かいずれか多い金額の罰金が課されるが税理士に課されたからといって納税者が免除されることはない(税法学566・235頁)。

 米国のある大学教授がしたためた論文にはany penalties or interest that would otherwise be  assesed against the taxpayer should be assesed,instead against  the preparer(以下略)と納税者(tax payer)の代わり(instead)に税理士(tax preparer)に負担(assess)させよとあるが、公式なものではない。

 

2、結論:税理士が納税者法人に代わって重加算税を負担する道理はない。法律上の根拠もない。

理由:重加算税を含む加算税は税務申告の適正性を保つために納税義務者に課されるものであり不正な申告書を作成したとしても税理士が納税義務者でもないのに重加算税が課されることはない。税理士には別の制裁がされる。

 もしこのような制度が実施されたら今以上に過少申告が増加し税理士にペナルテイを肩代わりさせようとすることが横行すると考えられる。加算税の立法趣旨である「申告秩序維持のため(中略)納税義務違反の発生を防止する」ことの逆になる。

 

<次回予告>

3番目の点に触れ、その他補足説明を行う。

第120回 納税者の品格と税理士の立場・・・22<最終回>

2020年7月17日

(問題の制度設計・・・まとめ4)

 

3番目の疑問点

 納税額の過不足は最後は会社経理に反映される。会社経理の主人公こそが重加算税負担の原因を作った人物ではないか、税理士は主人公か?

 

このことにつき結論を示し、次にその理由を書く。

 

結論:税理士は、会社経営の物語を紡ぐ経理の主人公ではない。重加算税を負担するのは主人公である納税者法人である。

理由:会社の経理は会社がした行為に含まれる意志の集約である。意思は仕訳を通じて1、利潤計算の側面と2、会社財産(財政状態)の側面の2面で示される。1は事業年度ごとに計算され2の貸借対照表に累積的に反映する。

 申告書に過不足があることが判明した場合「過」の部分も「不足」の部分も終局は貸借対照表に集約される。そもそも当初の申告内容も、税務調査で明らかになった過不足も含め会社経理には会社の森羅万象が記録され、これらの実在を示す貸借対照表の中味は会社に帰属する。

 税理士の立ち位置は委任を受けて申告の代理をした立場である。会社経理が示す資本の活動の外にいる。会社資本の活動を仮装隠蔽して不正経理をした結果、重加算税が賦課されることになっても行政制裁を受けるのは資本の活動を行った主人公であり、外側に居る代理人が課される筋合いはない。

 税理士が記帳代行していた場合も引き取ったデータが不正である場合は、引取データを保存することで、税理士が手を加えていない事実を証明できれば免責になる。

 

(会計の面から加算税に注意する点)

 会社において加算税が課される場合には裁決例の売上除外のような派手なもの以外に事業年度ごとの収益や費用の帰属や引渡基準の適用などが原因で加算税が課される場合もある。基礎になる公正会計基準は相対的真実性を求めるため、慣習や見解の相違で加算税が課される場合もある。加算税を税理士に付替え課税すると依頼者と税理士との紛争が多発する誘因にもなる。

 

 以上を防止するには税理士法33条の2の「添付書面」を使用することが税理士として最上の道である。納税者のレベルが多岐にわたる中で最も有効である。この書面には「提示を受けた帳簿種類」「計算し整理した主な事項」「相談に応じた事項」が備わっているため税理士の業務の最初からの一連の詳細が記されることになる。徹底することで不服申立や訴訟などの多発は防げるのではないだろうか。

 

 題材にした裁決例の税理士がこの書面を作成すれば、預かった資料には現金売上に関するものはなかったことが明白になり、納税者法人に、不服審判所にて「現金売上が申告で洩れていたのは、税の専門家である関与税理士が(中略)説明や指導を十分行わなかったことによるものであって、その責めを経営者に負わせるのは酷である。などの本末転倒の言い方をされることは防げたと考える。

 また税理士法35条1項並びに2項で、調査前と更正前に税務調査官に対して、国税不服審判所では審判官に対して、意見を述べる機会が与えられたのである。もっとも仮払金を勝手に売上原価に振替えたり、売上を勝手に追加計上した点を記することは躊躇したかもしれない。   

 

「別の制度設計」に関して)

 別の大学教授が「税理士による不正事実通報制度の創設」を雑誌にて提案されている。この提案内容は税理士に課せられた守秘義務に反するだけでなく、納税者と税理士の関係に不要な楔を打ち込むだけである。裁決例にあてはめれば、この税理士は納税者法人が1700万円の売上を除外していることは知らないので、このような通報制度が実施されても通報しようがない。この制度の効果はない。カラ舞いである。むしろこの納税者法人のようなワルサをする「普通の納税者」に税理士への警戒感を植え付けニセ税理士に走らせることになるように思う。

 

 これまで検討してきた「問題の制度設計」は納税者が税理士を試そうとする姿勢への視点が欠けていたが「別の制度設計」は税理士を税務署の予備ないし補助機関化しかねない点に問題がある。通報義務が課せられる税理士には「納税者への検査権」も備わらないと機能しない、がこうなれば将に補助機関である。税理士が税務署と同じ位置に立てば、納税者の回りは徴税機関ばかりで、いったい誰を頼りに自分の申告相談をすれば良いのか困ることになりはしないか。

 

 税金は、いろいろな納税者の生活に密接に絡みつくゆえに、人間の多面性や究極の本性が垣間見える。ナマの納税者に接しない立場からの「制度提案」であっても、世間の、市井の人々の暮らしへの視点も要るのではないだろうか。納税者から「試される」税理士ではなく、信頼を得た代理人である税理士と税務署の間で納税者への適正な課税額を巡って相互チェックしてゆくのが妥当と思う。<完>

     

 今回でこのシリーズは完結しました。お読みいただきありがとうございました。    

 

<予告篇>・・・「数字が語る事業の潮時、変わり時」・・・

 しばらくお休みをいただき7月31日から始めます。コロナで世の中が急速に、しかも世界的に変わってゆくのが日々実感できます。欲望を制御できないまま走ってきた反動が始まると思います。この影響が税や会計の面にどのように現われてくるのかに焦点を当てます。

・コロナの影響:罹れば200人に一人が死にます

・景気の下落:特にアメリカ経済の負の影響がじわじわと波及

・中小企業は良質の人材確保が困難に、雇用から崩れてゆく

・政府債務の対GDP比upから円の信認低下、貨幣価値下落、実質賃金下落の先は、もっと粗利率低下

・金利上昇は国債原因よりリバーサル・レートが契機になり借入体質企業を直撃

 

避けることは

1・破産に追い込まれないこと

2・事業を「やめるにやめられない状態」に陥らないこと

3・流れが速い中、スグ色あせる事業内容、ヒトの目気にして拡張拡大する時代ではない

4・できれば早期に縮小化または廃業したほうが傷は浅い

 

目の付け所

・手始めは事業のサビ落とし、白蟻(内部不正)の有無チェックと払い過ぎの税金の取戻し

・「こんな兆候」が数字に出たら黄信号、こうなったら赤信号

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