第11回 差がつく時代だからこそ、計数からの経営の見直しが必要です。
2009年10月8日
1、計数から危機管理を
大きく時代が変化する時、従来のままでは、意外な惰性にはまっていることに気付きにくいものです。数字をよくみれば平素と異なる視点から簡単にヒントを得ることができます。
その上、人間は先例主義に陥りがちです。危機が忍び寄っているのに、気付かないまま損失を出し続けている場合が多いのです。
これから一番大事な危機管理の視点から貴社のアブナイ兆候を見抜く作業が必要です。
これらは会計記録を十二分に使って行ないます。
2、どのようにするのか?
会計記録を見て、危機の兆候と今後の危機管理の対策を立てましょう。
血液検査のように会計記録を細かく見ることで財務面からの弱点が浮き彫りにされます。経営者は通常では会計記録を見ません。見ても理解できてない人のほうが多いのが現実です。
貸借対照表の売掛金の残高をみて、「こんなにお金(売掛金)があるのならそれを使えば良いではないか」とか、
「資本金があるから今月はこれで払おう」などというレベルです。
社長といわれてもこと計数に関しては商業高校生にも及びません。前号にも書きましたが、いままではそれでもやってこれました。これからはそうはゆきません。
会計記録はは貴重な内部情報で宝の山なのですが経営者は苦手のようです。
では良い方法があります。経営者の代わりに会計記録を見てくれてハッキリと意見を言い、おかしいところをオカシイと言ってくれる人物を連れて来ればよいのです。
なかなかそのような人は居ませんが。
特に重要な点は、損失が出ている場合です。真正面からそれを見ることを避ける傾向が人間にはあります。
そこを更に踏み込んで「原因は何か?ではどうすればよいのか?」が見えてくれば、逆に元気が出るものです。
元気が出るように誘導してくれる、ここができるかどうかが、値打ちがあるかないかを見るポイントです。
これができれば、大事な点がハッキリします。
第12回 いよいよ本論に入ります。
2009年10月15日
本論に入るに当たって、お約束ごとを説明させていただきます。
1、ワカリヤスイことが一番と思っています。平易に、専門用語を使わなくてもご理解いた
だけるように、しかも具体的に説明します。
2、経営に携わっておられる人に役立つことを銘記します。
会計を入り口にして危機管理に気付いていただくことが最終の目的です。
3、嘘と人の悪口は書きません。制度の批判はします。
4、コラムも楽しめます。
コラムは「鳥の目・犬の目」「枝道・わき道」の二つを用意しました。
5、形式を固定させていただきます。
状況判断→経営者の打つ手→木村の反対意見→結論→危機の性格とレベル
がそのおおよその形式です。
この形をとることで問題に対する思考トレーニングが自然とできることを狙いとします。
6、結論を述べると共に、危機の分類 をして締めくくります。
7、木村の回答等は「100年経営」ができるための視点から回答しますので、短期の即効
性ある回答とは異なる場合があります。
*<「100年経営」は商標登録出願中です>
第13回 中小企業の「危機管理」
2009年10月16日
本論−会計土木から見た中小企業の危機管理−
に入るにあたって
報道では株価が1万円台に戻ったとか良い話が伝えられていますが現実では、 いよいよ生き残りをかけた最終決戦の段階に来たようです。
これからの10年、残る中小企業とそうでない中小企業とに厳しく分化してゆきます。
経営に関する考え方を大きく変えなければならない企業と、現状のままでも生き残れる企業とイロイロあります。
会計を通してみれば、この区分は極めて分かりやすいです。
簡単なことです。会計が赤字を示しておれば、この原因がなぜか、をとことん突き詰め、そこから良い方向に向かうには何をどうすればいいのか、寝る間もなく経営者は考えなければなりません。
それをしないで、赤字の正体も見ようとしない経営者が9割です。そして現状を変えることなく土壇場(切羽詰った最後の場)まで行きます。
あたかも旧陸海軍が前線で負け戦が続いているのに高級軍人は料亭で連日宴会に明け暮れていたのと同じです。
この姿勢の背後には、情報の認識の甘さと分析力のなさがあったと類書には書かれています。
同じことが赤字が出ている企業の経営者が、赤字であることを認識しない、その原因も真剣に考えないのでは最終がどうなるかは見えています。旧陸海軍で気の毒なのは前線の兵隊です。南方で大陸で見殺しにされました。
インパール作戦の司令官などは戦後も生き残り回顧録を出したりしてそのなかで自己を正当化しています。
企業では従業員が犠牲になります。経営者も全てを失います。そこが高級官僚であった軍人とは違います。破綻した経営者は生き残れないのです。考え違いをしてはなりません。役人のように逃げ場はありません。
このようなことを書いていてもキリがありませんから、次からは具体的にワカリヤスク書きます。
第14回 会計土木からみた中小企業の危機管理
2009年10月16日
ケース1:資金が不足してきた。どうすればよいか?
現象:当社では、月末に支払う総額を相手先ごとにリストアップします。そのうえ給与総額や借入金
の返済額をあわせると、預金残高が不足がちです。
不足分は、社長である私から会社に入れています。今まではこのようなことはなかったので
す。
アドバイザー:経営者として何が原因と思いますか。思い当たることを列挙してみてください。
(この答えを経営者仮説と称することにします。大概の経営者が思われていることです。)
経営者仮説:収入より支出が多くなったのだということまでは分かります。正直、それ以上のことは
分かりません。
判定:× この社長さんは正確に事態を把握されておられません。これでは何の手も打てません。
あなたが社長さんならどのように考えますか?
< >
ヒントと考え方:収入より支出が多いから資金不足になった、という点は的を得ています。しかし企業にとって収入にはどのようなものがあり、どのようにして資金(いわゆるお金の状態)になるのか。このことと売上が上がった下った、こととの関係はどうなるのか、を理解することがポイントです。
会社で何が起きているか:
1、まず請求書を出したたものの、入金まで時間がかかるようになっていることが考えられます。現金商売の場合には、売上高自体が右肩下がりになっていると思われます。(掛売りの場合は回収の問題ですから売上の多い少ないとは関係ありません)
請求してから入金までの日数が何日になるかは、会計事務所などで簡単に計算してくれます。計算式を覚えておかれると便利です。
大口の得意先の回収が特に遅れている場合にも資金不足が起こります。
2、請求書を出した部分(これを売掛金といいます)の、回収を厳しくチェックしなかったため、いつのまにか不良債権化しているものがあると思います。
3、上記の1も2も、担当者の怠慢ではないでしょうか。このことはとりもなおさず経営者の怠慢です。チェック不足です。
4、今度は、支払のリストを良く見てください。その購入は誰の指示ですか。社長の知らないところで発注されたものがありますか。そうであれば誰が発注したのでしょうか。そのような権限を社長はその人に与えましたか。
購入した物は必要なものですか。購入価格は高くはありませんか。普通は他の業者の見積もりを取ります。不当に高い部分は発注者にキックバックされているかもしれません。ここは大事なところです。もしこれらが的中していたら問題の根は深いです。
早い話、収入より支出のほうが多いのです、なんてのんきなことを言っておれる場合ではありません。
5、購入したものが仕入商品や材料なら、無計画な仕入れはそのまま不良在庫になります。ノーコントロールのまま放任してきた会社の貸借対照表は資産の部に不良在庫が滞留し、負債の部に借入金が残ってしまっています。
こうなる理屈は分かりますか。
いまのあなたの会社で資金が不足していて、あなたが資金を会社に入れておられる。これが繰り返されたら、あるいはあなたの代わりに銀行に借入して、その支払資金が不要な仕入先に行くなら資金が減って、在庫が膨らんでしまうのです。それも売れない在庫が。
今気付かれたからいいのですが、放っとくと在庫と借入がメタボのように底溜まりした財務体質の会社になります。人体で言えば筋肉のない、ブヨブヨノ体格のようなものです。数字だけ膨れ上がって、力はありません。
6、人件費についてですが、会社が作り出した値打ち、つまり簡単な例えで言えば、仕入値と売値の
差(これを付加価値といいます)に比べて人員は適正ですか。過剰人員の傾向ははありませんか。
給与と法定福利費の合計が付加価値に占める割合(これを労働分配率といいます)をチェックしましょう。
7、借入金の月々の返済額と利息が収支の足を引っ張っているかもしれません。借入金が生じた時を思い返してください。銀行の言いなりで、付き合いで、借りたことはありませんか。そのような甘い対応をされたツケが月々の返済額を大きくしたのです。銀行の言いなりになってはいけません。昔と違って銀行も変ってきました。長い目でその中小企業を育てるような気持ちの支店長さんはもう居ません。こちらが考えを変えなければならない時代です。
危機の段階:
シロアリが棲みついた第一期と考えます。社長が陣頭指揮されば持ち直します。
但し、このシロアリは注意しないと侵食が早いです。
*危機の段階について・・・・以下の9タイプに分かれます。
危機の種類:3種類 (1)存亡の危機 (2)突然死 (3)シロアリ
危機の段階:3種類 (1)〜(3)ごとに 初期を第一期とし深刻なのを第三期とします。
100年経営のための辛口キーワード:甘さを捨て去り、鬼の目で社内を見直してくださ
い。懐疑的なマインドが必要です(猜疑心は禁物で
す)。この二つの紙一重の差がむつかしいところで
す。
このままでは、
100年どころか、5年ももちません。
第15回 コラム:鳥の目・犬の目
2009年10月19日
鳥の目・犬の目
映画 雨月物語 (溝口健二監督)より。
印象深い映画です。京マチコさんが主役ですが、私には、二人の脇役の生き方が心に残ります。その二人とは、村長(むらおさ)と阿闍梨です。
金儲けと出世のため野心家の兄弟は出奔します。一家は離散します。最後にはこの兄弟は故郷に戻ってくるのですが、そのあいだ一人残された子供を引取って育てるのが村長です。自分の子供を守ることすら大変な戦国時代に、自然体で、それをする人格が印象的です。
亡霊にとり憑かれた兄貴を、その霊力で目覚めさせるのが阿闍梨(修行を積んだ徳の高い僧)です。いかにも修行して鍛えに鍛えた毅然とした風貌が光ります。
この二人こそがいつの時代にも必要とされる人たちであると思いました。
サイテイは武士です。格好だけつけて、何も生み出さず、人を殺してはじめて自分が生き残れる悲しい仕事です。彼らは争いに明け暮れ、領主も年貢(税金)を取るだけで勢力争いをやめません。
これからも、どの時代も、人間は政争に明け暮れ、血を流し、権力をもった役人は恰も自分の時代が続くと錯覚しながら覇権を争い、或いは勝ち或いは敗れ去ってゆきます。長い目で見ると共に敗れてゆくのです。そこには真の勝者はありません。
このような権力闘争の外にあって、地に足をつけ、人々に役立つ存在は村長(むらおさ)と阿闍梨で示される生き方のように思います。
現代に置き換えると村長は組織でリーダーシップを発揮する人です。「中小企業のなかの一部(大部分は失格でしょう)の心ある経営者」も含まれます。
阿闍梨とは普通の人間の限界を超える修業をした結果、常人を超える能力を備えた人物です。
現代では、ひとつのことに精通した職人、専門家、その道のプロを指すでしょう。
政治家や軍人や巨大会社の社長よりも(彼らはスグ取って代わられ、退場してゆきます。最近も政権の交代を見たとおりです)、人間の世の中を本当に支えるのは雨月物語の村長と阿闍梨のような人ではないかと思うのです。
私が経営者になれば、あの村長のようにできるかわかりません。むしろ阿闍梨様に少しでも近づけるようにコツコツ努力するほうが性分のようです。