冬の時代を笑いで乗切るために
—これからの経済・世相に備える—
上のものほど新しい記事となっています。
<短編物語>第7話 サスペンデッドセンテンス その1
はじめに
このところ閉塞感にあふれた世の中がコロナ以降も続いています。新しい政権ができても結局従来からの構造は変わらない中であれこれ試行されていますが税収をあてにしたバラマキは変わらず、大きな脱皮は見えません。このままでは何も良くならない、沈んでゆくだけとの空気がメデイアからも伝わってきます。
断層から変化のエネルギーが生まれるとはいえ、2極分化がさらに進む先に起こる変化や変動がどのようなものであるかは誰にも分かりませんが、世間の底に流れる特徴が分かれば見えてくるかもしれません。
サスペンデッドセンテンスのサスペンデッドは「様子見」のことです。センテンスとは、ここでは文法の「文」の意味ではなく「言渡し」の意味で使っています。映画God Fatherでは初めにマーロンブランド演ずる主人公と依頼人が対話するシーンでこの言葉が出てきます。印象的なシーンです。執行猶予と言えば分かりやすいでしょう。この短編の主人公 泰彦は、大きなうねりや変化が現れる前の猶予期間に生きています。
群衆の中の孤独
「何であの人たちは、あんなに楽しそうなのだろう。」金曜日の夕方、仕事からの帰り道、駅前には何軒かの居酒屋や食べ物屋が並ぶ前を改札口に向かいながら泰彦は思った。店の中から「へー、メッチャええわ」「かわいい―ッ」「おいしい」などの言葉とともに上ずった女の黄色い声で「きゃ~」など意味不明の声が聞こえる。ちらっと中を見れば大ジョッキを手に大口を開けて乾杯~、カンパ―イ~の連続である。
泰彦は商事会社に勤務している。今の上司である高木課長は穏やかな人物で自分の感情に支配されないのが泰彦にはありがたい。前の女性の上司は感情で生きているような人物で常に物事の裏ばかりを考える人であった。それが事実かそうでないかの裏づけもないのに自分で勝手に絵を描いて決めつけるタイプで、泰彦が疑問を論理的に話すとヒステリーを起こすのが常であった。それだけで泰彦は一日が過ぎるとぐったりしてしまっていた。
高木課長になってから平穏な日々が過ぎていったが、ある日の夕方、仕事の後かたずけをし始めた泰彦に会社の内容がよろしくないこと、経営陣がM&Aを考えていること、そうなれば買収会社の子会社になり大幅な人員削減が行われるかもしれない、と高木課長から伝えられた。
泰彦の父も兄も学校を出たら良い会社に就職することが人生で一番の重要なこと、と疑いもなくそのような選択で生きてきた。
次回予告
M&Aには至らなかったが給与体系が変わり手取り額が少し減少した。円安のもと輸入品を始め諸物価がジリジリと値上がりしだした。消費税もまだ上がるかもしれないとTVでは報道している。収入が下がる中の物価高は泰彦に大きな決心に繋がる小さな心の変化をもたらすことになる。年々身動きが取れなくなる現実から脱出したい、その前にこんな状態になった犯人を見つけたい、との思いである。
<短編物語>第6話 フラッシュバック その10(最終回)
<「短編物語」は、分かりにくい税務や会計を身近な「物語」でご案内します>
次の挑戦へ
同じ商店街にあった高齢の店主が営む豆腐屋が廃業した。いつも早い時間から開店していたその店は、その日シャッターを閉じたままであった。張り紙が張られていた。
「お客さまへ 諸般の事情で、このたび店を閉めることに致しました。長年にわたり当店をご愛顧いただき心より感謝しております。ありがとうございました。店主 敬白」
商店街では、お歳だから仕方がないわよね、残念ね、、という声が聞こえた。しかし2週間を過ぎるとその声も聞かなくなった。
そのころから少しずつ少しずつアキラの店の売上は上向き出した。ヒトの口に入る生モノであり、鮮度が落ちる足が早いことが他の商売に比べ有利な点であった。老店主の豆腐店が閉じる前でも、アキラの店ではこのことが幸いして少ないが固い売り上げが維持されていた。
ヒトの口に入らない商品を扱う場合、売上げゼロが続くことは商店街事務局の手伝いをしていた時から商店主たちの慨嘆を耳にしていた。その上、掛売なしなので100%現金が入ってくる。この仕事を選んで本当に良かったと思った。
アキラは思い出していた。ある日野球帽をかむった一見遊び人風の男がこういった「今はやりのケーキ屋は油こねるのが大仕事、長くはできない、カラダ壊してしまう。ラーメン屋は鍋が重く40歳過ぎたらカラダがもたん。豆腐屋さん朝早いけどこれからの時代、世界に売れる。ニッポン発やで。兄ちゃんアンタ正解やァ !」と。そういえば祖父がフラッシュバックして言いそうな言葉だと思った。
不動産取引でお世話になった税理士も、簿記講習で教わった税理士も異口同音に「どんなにカラダがしんどくとも、その日のうちに数字を記録しなさい」とい言われたことの大事さが今になって分かった。
そのおかげで日々、週ごと、月の上旬と下旬に現われる売上の波が読めるのでそれを基にした予測ができる。それに伴って材料仕入れと在庫量の調整も先読みすることができコントロールした仕入れが可能になっている。
徳井は良く働いてくれる。コンビニ経営で客扱いは慣れていてソツがない。安心していられる。そのためアキラはより良い商品づくりにエネルギーをに向けることができるようになった。
自分を良く知る者と仕事ができ客の喜ぶ顔がチカラに変わる。ある日「もうオタクのお豆腐は買わないわよ!おいしくないからよ!」と能面のような表情で言った婦人も来店してくれるようになった。 (完)
<短編物語>第6話 フラッシュバック その9
<「短編物語」は、分かりにくい税務や会計を身近な「物語」でご案内します>
徳井が訪ねてきた、その話は、、
祖父の励ましが耳に残ったまま、その後も乏しい知識を総動員してアキラは、昨日より今日こそ、少しでも良い豆腐を作るため早朝からの仕込みで体は疲れていたが、良いものを、との情念で夜遅くまで試行錯誤を続けた。
そんな日々が続く中で、徳井がアキラの店にやってきた。相変わらず元気がない。事業主であったため雇用保険は出ない。奥さんのパート勤務で生活はできてはいるが、夫婦間の感情は険しいものがあり、落ちつかない日々であると彼は話した。そして「オレは疲れた。コンビニを辞めてから仕事を探したがロクな仕事しか見つからない。」
彼は大学を出ているが新卒入社した会社では営業に回され、毎日飛込み営業をして相手先の名刺を1日40枚もらってくることがノルマであった。そのうち何をしているのか分からなくなり、給料は悪くなかったがその会社を辞めた。2~3ハローワークで紹介を受けた先も同様であった。特に技術や特技もない、もう若くはない人間が積極的に取り組める仕事はなかったところコンビニストアにチャレンジしたが運営会社のエサになっただけであった。今から思うと大学の4年間がもったいなかった。技能や技術を習得しないで何をしていたんだ、と思った。
「何でもするから俺をこの店で雇ってくれないか。」思いつめた表情で徳井は言った。
「彼を雇えば今の売上では共倒れになる。危険だ。」とアキラは直感した。かといって冷たい対応はしたくなかった。
「少し考えさせてくれないか。」とアキラは言い、徳井は分かったと一言言って帰って行った。それから考えた。家族がないアキラは仕事を終えて自分のアパートに帰っても話す相手もいない。これが一番アキラにとっては辛いことであった。徳井が店にいてくれたら仕事のことを話したり意見を聞くこともできる。しかし先立つものはない。徳井は店の運営に干渉するタイプではない。アキラは無給でも良かったらとの条件付きで回答することにした。
「それで良い。なんでもする。仕事させてくれ。このままだとカラダもなまる。先になって給与らしいものが貰える時期が来たら給与も考えてくれるか。それまではその条件で良い。」と徳井は即答した。彼の表情、目からは言葉通りのものが感じられた。
店頭販売で接客を毎日しているとアキラは人の波動や内心までも分かるようになってきていた。真剣勝負の毎日の積重ねで客が自分の店の商品をどう見ているかもある程度分かってきた。他人とおカネのやり取りをしないで工場で機械相手の仕事や、ゴルフ練習場の雑役、組合事務所での事務仕事では感じなかった感覚が磨かれてきているように思っている。
徳井の言葉を受け入れよう。アキラはそう思った。
次回予告 最終回
同じ商店街にある高齢の豆腐店が廃業した。アキラの商品改良努力で評判も上向いてきたたうえ競合店の廃業で売上は安定しだした。数字の記録を怠らず続けていた結果、先の青写真が見えてきた。
<短編物語>第6話 フラッシュバック その8
商売開業
商店街の高齢の豆腐屋さんが廃業する話を商店街事務所で耳にした。アキラは老店主にこの先どうするのか聞いてみた。
「アンタ、商店街事務所の兄ちゃんか、早耳だね。でも廃業はもっと先だよ。体が動くうちは頑張らなきゃ。ほかにすることもないし、、」老店主はアキラの腹の内を見透かしたようにこう続ける。
「仕事は誰にも教えないよ。商売がたきに教えたらこっちが倒れてしまう、、」そっけない冷たい語感がアキラに突き刺さった。アキラは、自分が豆腐屋をしたいことが商店街の誰かを通じて噂になり、それが老店主の耳に入ったに違いないと思った。
祖父の声がフラッシュバックした。「自分以外は皆テキだと思え!他人が思うように動いてくれることは100%ない。油断すれば味方に命とられる。回りは敵ばかりの中で自分一人で道を切り拓くしかない。それが真実だ!」人間の檻のような軍隊という集団で生き延びた祖父から美談はないことをさんざん聞かされたではないか。
老店主の対応でアキラの早く開業したいとの思いに火がついた。商店街の外れに空き店舗があったことを知っていたので早速に賃貸借契約をして冷水槽、冷蔵庫などを中古業者から調達した。その他の浸漬タンク、煮釜、グラインダー、圧搾機、凝固型枠、凝固剤槽はメーカーから新品を調達した。新品を調達すると機械メーカーが製造指導と研修をしてくれるメリットがある。ありがたいことに伯父から相続した土地の売却代金があるため必要費は賄えた。
メーカーの製造指導だけでは知識と経験不足を感じたのでアキラは豆腐協会の豆腐マイスター講座も受講した。開店準備で多忙な傍らの受講であったが目的がハッキリしているのでカラダはしんどかったが講座は苦にならなかった。
開店してあっという間に2週間が過ぎた。
最初はそこそこの売上ができたが、10日たったころから急に売り上げが減少しだした。アキラにはその原因が分からなかった。数日悶々とした。たまたま数日前に豆腐を買ってくれた主婦らしい人が店の前を通り過ぎるので店から出て思い切って聞いてみた。
「ウチの豆腐は如何でしたか。よろしかったらまたお願いします、、」
「もうオタクのお豆腐は買わないわよ!」
アキラが聞く「どうしてですか?」
「どうしてですかァ?おいしくないからよ!」その女性は能面のような無表情で答えたまま足早に去って行った。
アキラは閉店後も店の奥でうなだれたまま数時間を過ごした。上滑りの促成栽培のような豆腐作りの知識と拙い体験ではプロには太刀打ちできないことを思い知った。どんな職業でも積み重ねた経験と分厚い知識を全駆動しても競争に勝ち抜くことはたやすいことではない。これまでプラスチック会社の臨時工、ゴルフ練習場の雑用係、市場事務所の手伝いなどさほど深い知識と経験が必要な仕事に携わらないでこの歳になったことが悔やまれた。
荒野に放り出されたような気持であった。祖父の声が耳の傍でフラッシュバックした。「馬鹿たれ!戦場で死んでゆく兵士にくらべてオマエはどれだけ恵まれているかワカランのか!!命とられる心配はない。店も設備もある。これからや、、、」
<短編物語>第6話 フラッシュバック その7
税理士のアドバイス
アキラは商店街の講習で簿記を教えてくれた税理士にも会いに行ってこれまでの経過を話した。一番大事なことは何かと質問してみた。
「日々の現金の出入りを、店を閉めたあと、たとえどんなに疲労していても自分の手で日々記録することです。それを続ける根性のない人では商売続けることがやがてできなくなりますよ。」
その言葉を聞いてアキラはドキッとした。伯父の不動産を譲渡した際の税理士と同じ点を強調したからである。日銭が入ることがチカラになるとあの時の彼は言った。目の前の税理士は日銭の管理ができないことは商売人失格であると言う。
「今はみんな焦ってすぐ良いとこ取りをしたがる。毎日の売上が調子よかったら、そのお金が全部自分のモノでそれが利益だとと勘違いして、やたら気が大きくなって良い恰好をしたがる。売上金は店主のカネではないよ。その金は世間から預かっているだけです。そこから仕入れの支払いをし、経費を払った残りがあなたの勝ち取った利益です。そこに気がつかない人が多い。表面の売上の額が多くなってくるとギャンブルや博打にのめり込む。人間は有頂天になっているときが一番コワイです。直ぐ高級車を買いたがる人もいます。そして支払いに行きづまると一旦覚えた見栄と贅沢の味を忘れられないのでコロナの補助金を過大請求して捕まってしまう。多いですよこんな人、、」
まだ開店前だから売上金が入ってきたときの実感はない。しかしこれまで給料として振込を受取る経験しかないが毎日豆腐を買ってくれたお客から現金をいただくことをイメージすると、彼は「ご主人、昨日の豆腐はおいしかった。」と顧客から言ってもらえるようになりたい気持ちが沸き上がってくる。早く技術を習得しなければと思うとともにアキラは俺は税理士がいう失敗例のようなことはしないとハラに収めた
税理士はアキラを見ながら「この男、まだ分かっていないな、、」という顔をしていた。税理士は見栄と錯覚で商売に行きずまるパターンを嫌ほど見てきている。
税理士は言う
「事業し始めて1年経てば半分が消えている。100人が事業始めたとしたら1年後は50人、2年経てば生き残りは20人くらいでしようか。3年目まで残っているのは5人くらい、5%です。この5%が継続してゆく。最初の100には商売の素質がない人や国会議員に多いタイプのアホボンもいる。それらみんなが3年経つと正体がハッキリするものです。」
アキラはその話を聞いてゾッとした。
税理士は続ける。
「アホボンでなく真面目に一生懸命事業に打ち込んでも資金不足や身の丈以上の借入で資金が回らないようになって消えてゆく。事業だけではありません。みなさんそれなりに頑張っても、どの分野でも日本は5%の国です。」
アキラは徳井のことを思い出した。徳井は先に支払いをして行き詰まった。その逆に、先に資金が入る仕組みがあれば資金不足に陥らない。税理士はそれを言っているのだと思った。それができなければ95%の負け組に入ることになる。
そんなアキラに耳寄りな情報が入った。
<短編物語>第6話 フラッシュバック その6
前回までのあらすじ
何の特技もなく、家族もないアキラは就職氷河期に世間に出た。家族を持つ余裕もなかった。
町工場に臨時工として勤めながら少しでも収入を増やすためゴルフ練習場の雑用係に加え商店街の事務所で週末働いている。彼の拠り所はインパール作戦で生き残った祖父の言葉である。祖父の言葉がフラッシュバックで耳元で聞こえる時に小さな転機が訪れる。「組織の上の者は信用するな、組織をアテにしないで自力で死ぬ気で前へ進め!」と。商店街でコンビニ店を経営をしている徳井と知り合ったが彼の店は資金を運営会社に吸い取られて閉店した。それを見てアキラは今のままでは出口がないと悟り、豆腐屋開業を考えている。そんな時、ほかに相続人がいない伯父の残した土地をアキラが相続できることになった。
アキラの船出
アキラは税理士・司法書士事務所が紹介してくれた不動産仲介店で相続した土地の売却を実行した。買い手は不動産会社であった。極端に口数の少ない男が買手で現れた。不動産取引の経験がないアキラにとって息が詰まるような時間であったが同席してくれた司法書士の存在で救われた気持であった。地方の土地のため伯父が購入した金額を下回る金額での売却になった。
「地方の土地は2足3文です。若い人は大都会へ出てゆくからこの辺りは老人ばかりです。売れただけでもラッキーですよ。」と仲介会者の主任は気の毒そうな顔で言った。
アキラは「伯父さんが購入した金額より下回って売ったのだから損をした分はどうなるのですか?」と司法書士に尋ねた。
「その損はどこからも差引かれないと思います。詳しい計算は税理士先生にお聞きになると良いでしょう。」アキラはその損の部分とプラスチック会社などからの給与が通算され、差引かれた源泉徴収額が戻ることを期待していたが税理士の答えは、、
「以前は損益通算といって給与所得から差引けたのですが、その後「改悪」され損失部分は切捨てとなります。なので土地譲渡については所得税の申告は不要です。アキラさんは3か所からの給与収入がありますから所得税確定申告は必要ですが土地の譲渡損失はなかったと思っていただいて結構です。」
さらに税理士は田舎の路線価は低いので伯父からの遺産に係る基礎控除の額が路線価をもとにした評価額を上回るため相続税申告も不要であると説明してくれた。
アキラはそれでもまとまった資金を手にできたので借入をしないで開店できるように思った。
不動産取引の後、立寄った税理士・司法書士事務所で税理士から「掛け売りをしないことですね。」と助言されたがアキラは掛けの意味が分からず、どういうことかと尋ねた。
「掛けとは豆腐と引き換えに現金をもらうのではなく売上金を記録しておき、締め日の後まとめて売上金を受取ることです。掛けの金額が多くなるほど客との力関係が変って来て、買手が大きな顔をするようになり、そのうち締めの金額ではなく内入れになりがちです。その挙句、お客さんが引越ししたりして入金されないままになることが最悪のケースです。
続いて税理士は商品と現金引換えなら毎日日銭が入ります。仕入先には初めは現金仕入れしかできないかもしれないが行商ではなく店があるので信用もつき、掛けで仕入れることができるようになるでしょう。そうなれば支払いは月一回だけですからキャッシュフローはずいぶん楽です。」
その通りだ、徳井の失敗はココだったのだ。気づいたアキラはカラダから力が湧き出るのを感じた。そうなると早く修業に入らねば、そして店を探さないと、、意気込みが彼を後押しした。
次回予告
商店街の高齢の豆腐屋さんが廃業をする話が商店街事務所で耳にした。貴重な情報であった。老店主が廃業するまで無給で手伝って技術を学ぶことを考えた。徳井が雇ってくれ、と言ってくる。
<短編物語>第6話 フラッシュバック その5
税理士・司法書士合同事務所からの意外な知らせ
アキラがアパートに帰った時、郵便受けに書留が届いているとの通知書があった。書留が来るようなことはこれまではなかったが、気になるのでその足で本局に行き、郵便物を受け取った。
内容は、伯父に子がないのでアキラが唯一の相続人であること。伯父は田舎の土地を所有していたこと。この土地の所有権移転の手続きが必要であること。2026年4月からは登記は強制になるから今のうちに登記しておくことを勧めること、であった。
アキラは事情を聞くため封書の事務所に電話してみた。司法書士から封書の文言通りの説明の後、2023年4月27日からは相続した土地を国が買上げる制度ができていること、この制度は制限が多く実際の利用は少ないと補足された。更に税理士からこのまま保有するもよし、譲渡することも可能で、前者の場合は固定資産税が毎年かかる、譲渡すれば譲渡所得税がかかる。もし後者なら仲介業者に処分を依頼することになると説明された。アキラはよく考えて後日連絡すると言って電話を切った。
アキラは、これは偶然ではなく祖父などからの応援だと思った。豆腐屋をしようと決めてから彼はあらゆる情報を集めた。一番の障害は資金であった。AIに以下のようなプロンプトで再び聞いてみた。
Q「私はやる気にあふれた起業家です。こんど豆腐屋をしようと思っています。設備は大豆を漬ける浸漬タンク、水槽、ボイラー付き煮窯、石臼、圧搾機、型枠、例水槽、冷蔵庫、給湯ボイラーは最低限必要です。最低500万円必要です。資金不足なので中古品でも良いので探すルートを教えてください。」となるべく具体的に聞いた。
するとすぐ器材の目安価格などを知らせてくれたうえ、修業については、豆腐店での見習い、豆腐機械メーカーの指導研修や豆腐協会で豆腐マイスター講座があることなどが分かった。が、資金の必要額はアキラの知っている額より下がることはなかった。
アキラは税理士・司法書士事務所に行き開業のことも税理士に打ち明けたうえ資金に困っていることも相談した。
税理士は言う。「こんな場合、大抵の人は銀行借入や公庫の借入を考えるがこれからの日本では事業していて借入金があるのと、ないのでは大きな違いが出てくる。国の借金が莫大なので国債の増発は段々困難になっている。既発債の償還だけでも大変であるから今後は金利が上がる。仮に3~4%になれば借金漬けの中小企業はバタバタと行きづまる。新規開店で固定客もないなかで借金を返すのは容易ではない。それより今度相続した土地を売ったら良い。伯父さんか取得した時期から起算するから余裕で長期譲渡です。税率も低い。この売却代金で商売のエンジンにすればよろしい。
アキラは苦手な資金のことが分かって霧が晴れた気持ちになった。
次回予告
土地の処分は税理士・司法書士事務所が紹介してくれた不動産会社でスムースに行った。祖父の司令官は兵隊を大勢死なせながら自分は飛行機で脱出したと聞いたが、アキラは兵隊で終わる気持ちはさらさら無い。ましてこのままで終わる気はない。祖父が「死ぬ気で頑張れ」と耳元でいう声が聞こえた。
<短編物語>第6話 フラッシュバック その4
徳井の閉店 アキラの起業
間もなく徳井のコンビニ店は行き詰まって閉店することになった。
毎月、先に出てゆく売上金を本部に送り、ロィヤリテイの支払いをしたあと、幾らの資金も手許に残らない。少しあった蓄えもこの先無くなってゆくのが確実になって来た。「このままでは一文なしになってしまう。何のための商売か!」と嘆いて嘆いて閉店を決断した。
彼の姿を見てアキラは自分がしていることを見直した。プラスチック工場の臨時工で昼間は消耗し、夜はゴルフ練習場の雑用アルバイト、週末は商店街事務所で総務をしている。休みなく働いてきたものの今自分にあるのは少しの貯金と税理士が教えてくれた生きた簿記の知識だけであった。
「これからどうする?」商店街外れの居酒屋で焼酎のお湯割りを口にしながら傍の徳井に優しく聞いてみた。「ヨメは他の店のレジ打ちの仕事を見つけてきて今日から行っている。オレはまだ頭の中がまだ真っ白や!オンナは強いなあ、、」
「またどこか勤め先、見つけるのか?」とアキラが聞くが
「わからん。何をしたらよいか見えない。見えないから一歩が踏み出せん、、」
その日、アキラは徳井と別れて自室に戻って思った。自分の手に技能や技術を持たないと、人に都合よく使われて放り出されるだけ。フランチャイズですぐ開業できるとの謳い文句を信じた徳井は大企業に利益を吸い取られた挙句放り出された。
その時、同じ商店街で老人のご主人が豆腐屋さんをされていて、アキラもたまに買う、無口だけれど実直さが顏に出ている老主人を思い出した。「オレも自分の腕で商いしたい。豆腐作りたい、それをお客さんに売って、兄ちゃんおいしい豆腐やったで!と思ってもらえたらサイコーやな。」
急にアキラはインターネットから豆腐店開業のキーワードでしらべ、さらに生成AIで豆腐店開業のプロンプトを入力してみた。
すぐAIから「とても良いご相談ですね。伝統的な技術と衛星面を学ぶことが大切です」と返事が来た。「修業の方法を教えてください。」と次のプロンプトを入れるといくつかの道を示してくれたうえ、必要な設備・初期投資の概要も案にしてくれた。
漠然としたものが一瞬でこの先が見えた。何を学び、どれほど資金が要るかまでの地図が見えた。
次回予告
豆腐店をしようと決めたアキラはプラスチック工場とゴルフ練習場のアルバイトを辞めた。工場の老社長は一時金を出してくれた。このお金と少しの貯金で食いつなぎながら豆腐店開業へ向かうアキラであった。
そんな或る日、全く知らない税理士・司法書士合同事務所から意外な通知がアキラにもたらされた。
<短編物語>第6話 フラッシュバック その3
「カタチだけ」の崩壊と地力あるものの台頭
アキラは、以前アメリカに滞在していて自動車免許を取った人の話を聞いたことがある。アメリカには予想問題集などという便利なものはない。いきなり本番の試験である。書けたら提出する。合格点に達している者は帰って良い。半数以上が居残って2回目の試験を受ける。再度提出し合格ならなら帰れる。そうでない者は3回目の試験を受ける。かなりの人数が4回目、5回目と夕方近くまで居残って繰返し受験するらしい。
その人の話を聞いてなるほどと思った。アメリカ人は不器用で鈍重のように見えるが知識は本物であると。繰返しの試験が頭の奥に刻み込まれ役に立つらしい。
それに比べて丸暗記の日本は「形式だけ」の試験である。そのためか試験で問われる内容は殆ど頭に残っていない。試験が済めばすぐ忘れる。バイクは平気で赤信号でも、そこのけそこのけ、と大きな顔をして突っ込んでくる。自動車も方向指示器を出さないクルマが多くなった。
形式だけなのは免許の試験だけではない。私立学校の入学試験も似た傾向である。選考には情実がつきものである。就職試験の時でもコネのないアキラは不合格が初めから決まっていたようなものであった。中身より情実で採用するなら就職試験という仕組みは要らないのに。
世の中の関門でまっとうな選考がどれほであるのか。カタチだけの仕組みが裏口を生む。国会議員には2世が過半数を占めるのもよく似た現象である。
人口減少で質が低下する上、形式だけで中味がない層が力不足で揺らぎ始める。
アキラには「中味のない形式だけ」がガラガラと音を立てて崩れ始めたことに気づいている。そのとき祖父の声が耳元でしたように感じた。「崩壊するぞ、、」と。
彼には見える。まず教育の崩壊、とりわけ大学というものの完全な崩壊、その次が血縁で固めた弱体中小企業の崩壊、国会の権威喪失、だれもそこで行われていることを信用していない。やがて巨大企業の粉飾や内部不正がドンドン表沙汰になる。
崩壊の反面、地力を持つ層が実力で殻を破って来るのが始まるとアキラは見ている。また祖父の声がしたようだ。「死ぬ気でしっかりやれ」と。
徳井はこのままでは閉店を余儀なくされるだろう。権威や形式で作られた矛盾の塊のような仕組みを疑うこともしないで信じたのが誤りであった。
次回予告
アキラの周りに飽和、行き詰まりの流れと、緊張、自信、鋭敏の流れが交錯するようになってゆく。アキラにも徳井にも波がくる。世界中が借金漬けでもがいている。通貨の過剰供給が原因で借金が多いのに手許金はあるから企業の買収M&A、行政の余分なイベントや箱モノの建設がそれを覆い隠すように行われる裏で確実に通貨の下落・上昇、金利上昇が迫り、やがて全面展開から選別が始まる。
<短編物語>第6話 フラッシュバック その2
アキラの週末に起こったこと
その週のアキラはプラスチック加工会社で急な欠勤者が出たため多忙であったが、ゴルフ練習場での3日間の勤務をキッチリこなした。その翌日の土曜日に商店街事務所へ出勤する前に徳井の経営するコンビニに寄ってみた。
「おはよう、元気かね?」とアキラが声をかけたが徳井の返事には元気がない。
何かオカシイ!とアキラは気づいたが来店客もあるので何も言わずに店内の商品をそれとなく見ていたら、徳井が近づいてきた。
「売上はそこそこ目標通りだが、支払に追われている、店をするのは大変だ!」とため息まじりにつぶやく。
アキラが聞いてみると、日々の売上金は本部(フランチャイザー)への預け金になり自分の自由にならない。そこへ日々自己負担の諸経費が発生し、その支払いのため手許の現金が出てゆく。なのでいつも資金に不自由している。締日が来ると本部へのロィヤリテイの支払いが先行し、いろいろ差引かれて幾らも手許に残らない。長時間クタクタになるまで働いても生活にもこと欠くらしい。
「店するとき説明会があっただろ、そのことに気がつかなかったのかい?」とアキラはやさしく聞いたが「そのときは分かったつもりだった。が、これほどの現実はイメージできなかった、、」と徳井はうつむきながら言う。そして「こんな状態では本部のために働いてるだけだ!」とこぼした。
かける言葉もなくコンビニから道路に出たとたん一方通行を逆走してきた若い女のバイクにぶつけられそうになった。アキラは転倒する寸前だった。鬼瓦のような顔をしてバイクの女は去っていった。
彼は気がついている。この国の仕組みはカタチだけの部分があることを。バイクの免許は30分ほどの学科試験とその後の講習で取れるが学科試験は丸暗記である。自動車の免許も予想問題集を丸暗記して試験に臨む。中身の知識は頭にほとんど残らない。信号無視や方向指示器も出さないクルマが異常に多い。
次回へ続く
<短編物語>第6話 フラッシュバック その1
この物語のあらまし
近未来の日本経済の底辺の姿の描写を試みる。
<登場人物>
主人公:アキラ
50歳 卒業時には就職不況で、これまで非正規雇用で各社を渡り歩いてきた。結婚する収入も自信もない。独身、家族はいない。これまでに就いた仕事は多種あったがどの仕事にも魅力を感じなかった。
物価高の影響か月末近くなると手許の現金に余裕がなくなることが多くなってきた。
昼間はプラスチック加工会社の臨時工として射出成型機の補助担当員をしている。正社員の指示のもと日々「プシューツ・ガチャン」の音とともに成型機から吐き出される製品の選別と機械のメンテナンスが仕事である。その会社も経営者が老年になって今なお銀行借入金が残り、後継者も不在で先の見通しは暗い。中小企業なのでここ数年、給与は上がっていない。
そのため2年前から収入不足を補うため週3日、18時半から22時までゴルフ練習場の雑用係りをしている。自分よりはるかに年下の人たちが高級外車を練習場に乗り付けるのを見て、自分が歩んできたのとまったく別の世界があることを知った。
生活に追われて働くだけの日々であるが社会保険料などの給与からの控除額や消費税の負担は容赦ないので金銭的には余裕はない。
そこで少しでもゆとりを持ちたいので週末には地元の商店街組合の事務所で総務として勤める口を見つけた。商店街の惣菜店で買い物のときにご主人と話す機会があり、そのご主人が商店街組合の理事である関係で、これまでおられたパートの事務員さんが体調不良で退職された空きに推薦してくれた。この商店街も閉店が多くシヤッターが閉まったままの空き店舗が徐々に増えている。
閉塞感ばかりのアキラであるが、実は彼の祖父は大東亜戦争で招集されインパールで多くの日本兵が倒れるなか奇跡的に生還した体験をもつ。祖父は何も語らなかったが、実態はずさんな作戦計画のもと食糧不足での病死が圧倒的であったと余暇に読んだ書籍で知った。兵站を考慮しない無謀な作戦司令官の名はアキラの記憶に根付いている。牟田口という名前を目にするだけで気分が悪くなる。無能なトップが組織の下部に無理を強いる官僚機構の歴史的見本がアキラに与えたものは、ただ長いものに巻かれることへの強烈な違和感である。
コンビニ経営者 徳井:
アキラが週末勤務する商店街に最近入居したコンビニの脱サラ経営者である。アキラとは同じ年代なので話も合う。
簿記の講習会 商店街組合で簿記の講習会が開かれた。アキラには全く知らない知識であったが総務として講習会の段取りをし、後ろの席で講習を聞くことができた。講師の税理士の話がワカリヤスク面白くたちまち簿記に興味が湧いた。前にたまたまyou-tubeで簿記のシーンを目にしたが話し手の大学教授の話は面白くもなかった。が、今度の講師は税理士として生きた実例に当たっているからか話に深みがあった。
徳井と付き合う中でアキラはコンビニの資金の実情を知ることになる。
簿記の知識に加え徳井の商売の実態を知ることで、衰退するばかりの中小企業や商店街の反面、じぶんならこうして打開できるのではないかとの根拠のない意識が芽生える契機になってゆく。
政府財政の危機的状況に加え金利高、景気の更なる低迷、人手不足、訓練不足知識不足が原因の企業業績悪化、治安の悪化、事実か広告か判別不明のメデイア情報のなかでアキラは彼自身もやがて譲渡所得税、相続税、消費税の洗礼を受けることになる。そのことがアキラの考えと行動に影響を与える。
<短編物語>第5話 切り拓く明日 その8(最終回)
船出と形態
勇と陽一はそれぞれ自分の腕を生かして会社に帰属する立場から自分の事業を立ち上げる計画の下で実行に移してゆく。
勇の場合
勇はロール研磨の専門工として各地の鉄工所や製作所など数社と契約をしてゆくので専門家先生と相談して会社組織にすることを決めた。
出資は限られた人々からのものに限定したかった。多くの資本を集めて資本金を多額にする必要はなかったし複雑な運用形態に悩まされて肝心の仕事に差し障りが生じることは本末転倒であり、何処の誰なのかを相手に伝えるための最小限の構えでやってゆこうと思った。
専門家は「中世イタリアのパートナーシップがキミの構想によく合っているが、日本ではそのような形態はない。アメリカのパートナーシップを取り入れた「有限責任事業組合」というものがあるがなじみにくい。顧客と契約するときに相手の多くは株式会社であろう。株式会社が契約する相手が事業組合では『それ何です?』との疑問が出て、契約するまでスムースに行かず、事業組合について世間での認識もない。そうすると株式会社が一番良い。」とアドバイスしてくれた。
続けて「ただし株主になってもらった知人が勝手に株式を売却したり、今時はやりのM&Aに応じて株式を手放したりしたら仕事どころでなくなる。そこであらかじめ議決権の行使について何らかの歯止めを設けておく必要がある。また、出資する側も配当が欲しいのが正直な気持ちであろう。そこを考えると配当を他の株式に優先する優先株を発行することも一案です。」と専門家は説明してくれた。
勇は当分は利益を挙げても配当しないで蓄積したかったし、分配に際しては株主間で異なるより平等にシンプルに分配したかった。そのため優先株の発行は実行しないことにした。その結果「議決権制限株式」を発行するにとどめた。
司法書士さんも交えて手続きに入った。名刺や事業案内も簡素なものであるが用意して仕事の獲得にスタートする準備は整った。ここまで来て本当に自分の命を懸けて事業を行ってゆく決意がカラダの芯から湧いてくるのが分かった。
陽一のケース
陽一にとっては第一に必要なことは客に親しまれる店のネーミングである。なかなかピタッとした名前が見つからない。ベッドサイドにメモ帳を置いて幾晩も眠れない夜が続く。
その次が店の立地である。彼は年配のシエフが出した須磨の店を見に行ってハッキリと店のイメージが決まった。スマホの地図を頼りに自分の店を出す場所を探して街を歩き回った。
用意できる資金の範囲で敷金や内装費などの立ち上げ資金が必要であるだけでなく、運転資金の準備も必要であるため金融機関に相談する予定である。
不特定多数の客が来てくれることが必須なので会社の形態などは不要であり、個人事業として税務署への開業届や保健所への届を出すだけである。
このような日々を過ごすうち、陽一はあることに気がついた。ホテルに勤務しているときに上司の料理長に気をつかった日々に彼の眼に入った風景とまったく違って街の色合いが鮮やかなのである。やる気がそうさせるのか足取りも軽く、道で出会う人ごとに挨拶したい気持になってくる。
準備が一段落したら、勇に会ってみようと思った。その時ちょうど夕日が沈む時であった。鮮やかな夕日がビルの壁に胸を張った陽一の姿を映し出していた。
完
<短編物語>第5話 切り拓く明日』その7
働くことと給料の関係・・・剰余価値の正体
前回に専門家から「剰余価値を分子にして給与として支払われる部分を分母にすれば分子の方が大きいのが実態です。」と説明された点が陽一にはもう一つ理解できなかったので再度聞いた。
専門家は「分かりやすい本から引用して説明します」と「今までで一番やさしい経済の教科書」や「落ちこぼれでもわかるミクロ経済学の本」などのベストセラーで著名な木暮太一先生の『超入門資本論』(ダイヤモンド社刊)の81頁~91頁を例に説明してくれた(以下木村要約)
綿糸から綿花を製造する企業例
綿花10キロから綿糸10キロを製造するのに概ね4時間従業員が働く。
従業員の給料は日給4,000円の契約(1時間当たり1,000円の価値を生む)
<企業が生産量を倍にして綿花20キロを生産して販売する場合>
綿花10キロの綿糸原価12,000円→20キロなら24,000円(2倍になった)
10キロ生産に使用する機械設備の減価償却分4,000円→8,000円(2倍)
従業員給料:日給なので生産が2倍になっても変わらず4,000円
<生産量10キロの場合の企業原価>
綿糸12,000円+機械減価償却4,000円+給料4,000円=20,000円
<生産量20キロの場合の企業原価>
綿糸24,000円+機械減価償却8,000円+給料4,000円=36,000円
企業がこの綿花を40,000円で売った場合の利益は4万円-36千円=4000円
この利益は4,000円の給料で20キロ生産した従業員が付け加えた剰余価値
4,000円の給与で20キロ生産したから8,000円相当額の労働をしたが給与は8,000円でなく4,000円であるから差額の4000円が剰余価値となる。
専門家は「お尋ねの剰余価値率は剰余価値4000円/給与4000円=100%になります。経済統計では100%を超えるのが実態です。余分なことかもしれませんが古い経済学の教科書では剰余価値率のことを搾取率と表現しているものもあります。」
専門家の答えを聞いて、陽一は、企業に雇用されて働くことはこの例のように4,000円でギリギリまで働いて生み出したそれを上回る価値は自分の手には残らないことがこれまでのホテルでの勤務体験から実感した。
とともに剰余価値が会社に帰属するなら利益を得ているのであるから「ありがとう」との態度を待遇などで示してほしかったが上司の料理長にこのことを求めるのは無理だと思った。組織があるので本質は見えないことも良く分かった。
勇の言う通りだった。明日にでも須磨ビーチにシニアの料理人さんが新設された店に行ってみようと思った。自分の店の青写真つくりのために。
次回予告
次回は最終回になります。勇と陽一はそれぞれの腕を生かして未知の世界に挑戦してゆきます。
<短編物語>第5話 切り拓く明日 その6
今回の要約
専門家の話を聞いたあと、陽一は勇に会ってお互いの意見を交換したくなった。
自分の値段のこと、会社が得る利益の中に自分の労動力を売った価値も含まれていること、会社のために働くのではなく自分と顧客のために働くことなど話したいことはたくさん湧いてくる。
時機は今であることに気がつく
会った最初から勇は勢いよく話した。「俺、あれからさらに考えた。今は非正規がすべての勤め人の4割近いらしい。企業の経営者は従業員を非正規に変えることで利益を出そうとしている。人の育成や訓練もしない。専門家先生は政府が非正規を増やす政策である今がチャンスだと言われた。どこの会社もベテランが減って技術が未熟な新人ばかりになる。自分の仕事をしながら新人の教育もするとなったら会社は良いが俺は手一杯だ。やってられん。」
それでどうする。陽一が尋ねる。
「今は俺には腕もある、勉強もしている、体力もある。自分の値段を高く売るのは今しかない。このまま非正規雇用を増やした政策の尻ふきで会社従属の教育係になることはしない。新人は教えるよ。それは従業員としてではなく独立したプロとしてそれ相応の料金を取って実行する。もちろんロール研磨工としての契約もする。」
「ということは退職して契約に切り替えるのか?」
「そうだ」勇の返答に迷いはない。
陽一は専門家との話の最後に、働いて自分の労働力を会社組織に売った価値のうち自分が手にする給与を超える部分は結局どこに行くのかを聞いた際の話を思い出していた。
陽一の質問に専門家は「その超える部分を剰余価値と言います。会社の成長の源になります。余分なことかもしれませんが剰余価値を分子にして給与として支払われる部分を分母とすればその割合を剰余価値率といいます。分子の方が大きいのが実態です。利益のモトですね。」
これを聞いて自分が働いた価値以上の部分は組織に属するのではなく自分が成長するために使いたいと思った。
専門家が気分転換のためにいく須磨ビーチに最近年配の男性が新しく間口一間、座席数4~5席のピザの店を開いたとか。その人に比べれば自分には若さがあるのでもっと別の絵を描くことができると思った。腹を決めないで日々昨日の続きを続けて行くことは消耗以外に何も生まない。覚悟が決まった。
次回予告
勇との話の中で創業助成金やスタートアップ支援金が地方自治体から出ることや創業支援の融資制度もあることが分かってきた。
<短編物語>第5話 切り拓く明日 その5
前回までのあらすじ
勇は会社と交渉して契約制に切り替えてもらうという。出口のない中小企業勤めの勇らしい選択だと陽一は思った。とともに、勇が言う「自分の値段は自分が決める。いつまで働くかも自分で決める。」の言葉が納得できた。以前の勇からはこのような言葉は聞かなかった。勇にその話をした専門家とかいう人に陽一も会ってみたくなった。
専門家に会う
犬と猫を傍に置いて専門家は陽一に会ってくれた。陽一が自分の値段のことを訊くと専門家は優しく例を引いて説明してくれた。
「人間が大人になった時、どの人も労働力という商品を持っています。若い時からやがて死ぬまで元気であれば、よほどの大金持ち以外は労動力を売って生活の糧を得ます。そのために勉強し、努力を積み重ねて、できるだけ労働力を高く売ろうとします。なぜなら、プロ野球選手や大相撲の力士さんの例でお分かりのようにある程度の年齢が稼ぐピークです。それ以降は下り坂です。どんな仕事にもピークと終わりがやってきます。」
陽一は労働力を売る、ということの意味が分からないので、売り方があるのですか、どこで売るのですか、と質問した。
「一番多いのは会社へ就職することですね。誰でも給料が多い会社を選びますね。これが労働力という商品を売る行為です。しかし労働力の値段は会社が決めています。高く売るには高い給料を払う会社を探すしかありません。」
陽一は「自分で値段をつけるにはどうしたらいいですか。」と聞いた。専門家は「労働力を売る行為は勤務するだけではありません。会社勤務はサラリーマンという表現でひとくくりですが、工事をする場合、設計をする場合、野球選手としてチームに入る場合などは契約です。売手と買い手が交渉して値段や期間が決まったら契約します。」
陽一はそんなことも考えないでホテル会社の提示する給料に疑問も挟まなかった自分の無知に気がついた。
陽一は番知りたかった点を訊いた。「では先生、その値段はどうして決まるのですか?」
こういうことです「あなたが果物店をしているとします。仮にリンゴを100円で仕入れたらいくらで売りますか。」
「もちろん100円以上です。できたら1000円でも売れるものなら売りたいです。」
「そうですね。労働力も商品であると最初に言いました。買い手である会社は30万円で買った労働力で少なくとも30万円以上の価値を創造しないと利益が出ません。価値を創造するとは働かせることです。30万円で雇って20万円分しか働かない人であれば会社は損します。損だけでなく会社も危機になります。契約も同じです。買い手と売り手が交渉して買値以上の利益を得ることを買い手は考えるし、売り手も得た対価以上の価値を作り出すことをしないと契約は長続きしません。雇用の場合はこの点が見えにくいですが、交渉では一対一ですからお互いに納得した金額で決まります。」
得た以上の価値を創ることと聞いて、陽一は会社という組織の中で懸命に働いても、その価値を労働力の買い手である会社は認めてくれているようには思えない自分がいた。
そして陽一は思った。それなら目の前のお客様に価値のある料理を自分が直接提供して喜んでもらう、そしてその売上金は自分の手に入る、これほどわかりやすい話はない。
勇が今が時期だといった意味もわかった。体力がある今、行動しないと10年もたてばその気力がなえるのは自然のことである。
次回予告
専門家からアメリカでは、渡米した日本人は賢いからドンドン起業して成功している話も聞き挑戦の腹を固めることになる。
<短編物語>第5話 切り拓く明日 その4
前回までのあらすじ
陽一はホテルの料理人である。上役の料理長とうまくいっていない。勇は中小同族製作所でロール研磨工をしている。同族会社なので先行きの見通しはない。二人はバッテイングセンターで知り合った。二人に共通しているのは行き詰まり感である。
勇が頭が捻じれるほど考えたこととは
勇は言う。「これからはもっと人手不足になる。製作所の現場は専門工がいなくては成り立たなくなる。これは時間の問題だ。中小企業の現場は雇用崩壊だぜ。」
「一方、会社は給与をupして引き留めようとするが、使い捨ての根本は変わらん。もっと給与が高い他社へ移ってもどうせ使い捨てだ。何社を渡り鳥のように移っても時期が来たら定年、延長しても給与は下がる、そうでないと若手から不満が出る。こっちも体力がなくなる。」
それで、、と陽一は興味深く尋ねる。
勇は「俺、大事なことに気がついた。」
「どういうこと?」
「自分がいつまで働くかは自分で決めたい。それと一番大事な点だが、自分の値段は自分が付けたい。雇い手に決められるのでなく。これができないと他人に使われるだけだ」
「でも、それでは何の保証もないぜ」
勇は返す「保証?よく考えてみろや、いまでも保証はないと同じではないか?」
それを聞いて陽一はホテルでの自分の立場を考えて合点が行く気がした。このまま料理長に気を使い、会社がどう傾くかも分からない中、やる気もパワーも落ちて行きその果てにあるものは、、、、そして自分の値段は自分で決める、いつまで働くかも自分が決める、、このことが違う世界の入口を示したような気がしてきた。
勇に訊く「具体的にこれからどうする気か?」
「俺、会社と交渉して契約制に切り替えてもらおうと考えている。その条件に今勤めている製作所のほかでも新たなロール研磨の仕事を開拓することのOKを勝ち取ることだ。今の会社ではロール研磨の仕事はこれからも増えない。なので会社は俺の給与が負担になると考えると思う。その先手を打つ。」
なるほどと陽一は聞きながら自分にも当てはまる気がしてきた。厚生年金や健康保険がなくなるのは少し気になったが、、
それを見越したように勇は「ある専門家という人に聞いたんだが、会社は厚生年金と健康保険料の半分を負担しなければならないから、それが重いらしい。そのうえ契約になれば雇用関係は無いから俺に支払う賃金も会社は消費税がかからないようになる。契約にしたら会社も良いことが多いらしい。」
陽一は勇の話をきいて、自分が気がつかなかったことがあまりに多かったことに愕然とした。それと勇は社内でロール研磨工は彼しかいない。それに引き換え他にも料理人が何人もいる自分の立場がそれほど強くないことも気になった。
陽一は、勇のいう専門家の話を聞きたくなってきた。
<短編物語>第5話 切り拓く明日 その3
前回までのあらすじ
陽一はホテル勤務の料理人である。勇は中小製作所でロール研磨が専門である。
二人は友人である。上司の料理長と折り合いが悪いので陽一はホテルを辞めようと思ってることを勇に話すが、勇は辞めてほかに勤めても同じことの繰り返しであると陽一に諭す。組織内で自分以外に頼れるものはない、と思えと告げる。
勇が自分の体験から思うことを陽一に話したこと
「陽一よ、オレところも同じようなものだわ、、典型的な同族企業で主要ポストはみな一族で固めている。以前、赤の他人の経理部長が心筋梗塞で急死したときの社長の行動を見ていて冷たい人だなと思った。」
「どうして?」
「当時はコロナ前で家族葬いうものはなく普通の葬式だった。近所の人や学校の同級生が大勢来ていた。会社からも現場の主任をはじめ末端の工員や資材管理の仲間も参列していた。職場の仲間だからな、当然と言えば当然だ。おれは人情を感じたよ。」
「社長や役員は来たのか」陽一が聞く。
「社長だけ来られてた。それも中途で、じゃあ、といって帰られた。俺は社長は冷たい人だなと思ったよ。あれだけ身を粉にして会社のために尽くした人なのに。社長は経理はわからん。だから貢献が見えないのかもしれないが、その点を割り引いても冷たいなと思った。経理部長と接点がある税理士事務所の先生や事務所の担当者も馳せ参じていたのに。ほかの同族役員も誰も参列していないなかで俺は良く分かった。」
「何が?」陽一は問う。
「他人は使い捨てなのだということが。経理部長ですらあれだから研磨工の俺なんか数にも入っていないのだということが。そして先々の身の振り方を考え始めた。」
陽一が大きな仕草で同感の気持ちを示しながら言う。「この先どうする?」
勇は「アタマがねじれるほど考えた結果はこういうことだ、、」
次回予告
二人の将来展望がハッキリしてゆく。彼らが知らない最新情報を知らせてくれる人物も現れる。
<短編物語>第5話 切り拓く明日 その2
陽一が勇に話した胸の内
「実は新しく来た料理長がムツカシイ人で困っているのだ!」陽一ははなし始める。
勇は陽一に優しく聞いてやる。
「どう困るのかね?」
「新しいメニューを考えたり、タレを改良しようとしたらイランことするなと言われる。面白くない。」
「それで、、?」
「俺、今のホテル辞めてほかのレストランに転職しようと思う、、」
「転職した新しい職場が今より良いという根拠はあるのか?」
「ない。でも今のように上からアタマ押さえつけられたままではエネルギーが湧かない」
「陽一に聞きにくいこと聞くが、なぜ料理長はキミの行く手を阻むのかね?」
「本人から直接聞いた話ではないが、定年まで波風立たないようにしてしっかり退職金を手にしたいのだ、というのがもっぱらの周りの噂だ。俺が新しいことを試みて客の評判を落としたりしたら料理長の責任になるから前例のまま何も変えるな、というのが方針なんだわ。」
「中味を改善して職場の活気を出したり、顧客の嬉しい顔を見るより自分の立場を
守ることが第一だな。気の小さい男だナ、、」
「このまま料理長の下で過ごしてるうちに俺の料理人としての腕は確実に落ちる!!これも耐えられない。だから職場を変えてみようと思う。」
「料理長の上の階層はどんな考えなのかい?」勇が訊く。
「大きな組織なので厨房やホールの実態には経営層は関心はないようだ。彼らは現場を知らないから口を挟まない。それにもしM&Aになってさらに大きなホテルに買収されたら料理人が余って悪くすると退職勧奨だと現場のみんなは言っている。そうなれば最悪だヮ。」
「現実になっていないM&Aまで想定して転職を考えるのはハッキリ言ってどうかな。転職リスクが高いと思う。そんな架空の話はやめて、もっとありうることを考えよう。」
「どんなことかね」
勇は続ける「キミが今よそのレストランに就職しても、そこが同族で2代目や3代目かの世襲経営者だったらどうする?大きなホテルより中小レストランの方が圧倒的に多い。M&Aよりこっちの確率のほうが高いぜ。世襲のボンボンがだらしないのは国会議員見てたらわかると思うけれど奴らは底意地が悪いと思うョ。我々と違って守るものが多いから。俺はこれまでの経験で身に沁みている。そんな会社は赤の他人の従業員には給料は最低で、そのうえ周りには古くからいる茶坊主が何かとご注進して、ほんとうのことは上には行かない。捻じ曲げられて伝わるのが普通だ、、」
「じゃどうすれば良いのだ、俺は、、」陽一は勇の顔を見ないで下を向いたまま聞く。
「今の段階でよそへ移ることは考え直したら良いのでは。転職するほど境遇が悪くなるものだわ、、いっぱい見てきた。俺が言いたいのはこの先、本気でキミのことを考えてくれる人は居ない。自分しか信じる者はない、と覚悟を決めるこどだわ。他人を信用するな、当てにもするな!」
<短編物語>第5話 切り拓く明日 その1
この物語のあらまし
登場人物
陽一:ホテルのレストランに勤めている。彼の主な役割は「鉄板焼き」である。
勇:下町の製作所で働いている。工場でロール研磨が専門でこれまで来た。
二人はバッテイングセンターで知り合った。同じ年代であるだけでなく片方は食材を相手に、他方は鋼材と格闘するが、ともに現場仕事で鍛えられた迫力と臭いが二人を引き寄せ、話をすることになった。二人とも調理場で、工場内で一日のほとんどを過ごすため、外の空気を吸いたいと思ったのが打球場に通うきっかけであったのも共通していた。
陽一のホテルはM&Aの流れにさらされており、いつホテルの名前が変わるかしれないなかで自分の腕を磨いてきた。今ではそのホテルのレストラン部門ではかけがえのない存在であるが、数年前に招聘されてきた料理長がことあるごとに口をはさむので居心地は決して良くはない。
勇の勤める製作所は典型的な同族企業であり、主要なポストは「ご一族さま」で占められている。DX化の現在、その製作所では新鋭設計器を用いた受注生産が主力になっていて勇の持ち場であるロール研磨は傍流である。
彼らに共通するのは、ここ何年も給与が増えていないうえ、賞与に至っては減少気味である。テレビでは政治家が景気を良くし給与も増やすと演説しているが、どこの国の話?との受け止め方しかできないようになっている。一生勤めても天下りはおろか、系列への出向や再就職などの道もない。ホテルでも製作所でも澱んだ空気のもと、何となく一日が過ぎてゆく。
そんな中で陽一も勇も職人としての自分の腕を磨くことは怠らなかった。自信がある。しかし、このまま年を取った先にあるのは定年になり、使い捨てされて職場を去っていった先輩の姿である。
出口がなく天井も抑えられたような境遇のもと、タマの休みにバットを振って球の行方を追いながら一汗かくことは彼らにとって唯一の閉塞感から解放される慰安であった。
次回予告
ある休日、ひと汗かいたとき陽一が「俺 こんなこと考えている、、、」と勇に話し始めた。
<短編物語>第4話 まだ間に合う、これから、、その9 <最終回>
作業所の、PCに詳しい先生のご厚意でえみちゃんはPCを使えるようになりました。意欲が勝ったのか、理解が早いのか一通りのことができるようになりました。
「前の税理士さんにエエ加減なことされて無知であることが、どれだけみじめか思い知ったからよ、、、何の助言もなくて税理士法違反チヤウの!」えみちゃんは悔しさがバネになり必要な知識、技能を全身で吸収してゆきます。
最小限のサイズに事業を縮小した試算を新しい税理士さんと行った結果、会社は清算することになりました。最小限の仕事が確保できるため個人事業でやってゆけます。このため給与を法人から取らなくて済み、年末調整とも無縁になります。
会社を清算するときに昔購入して今は不要な飛び地も買い手がついたため、良い機会だと売却しました。売却益が出ましたが、新しい税理士さんの判断で過去10年間の繰越欠損金が充当できただけでなく、その前の年度に生じた期限切れ欠損金も使用できたため清算に際して法人税の負担はありませんでした。お父さんもお母さんもホッとしています。
「とにかく今度の件で税理士さんにもいろいろな人がおられることが分かり、いい勉強になりましたヮ。それぞれの税理士さんがどんな経歴で資格を取られて、どの分野が得意か税理士会のホームページなどで分かれば希望する税理士さんを絞り込めることができるのに。それは公表されていないのですか、先生?」お父さんは前の税理士によほど残念な思いをしたのが残っているようです。
「お父さん、残念ながら資格取得の経路や得意不得意の税理士会での公表はされていません。これからも期待できないでしょう。」
「不便なものやね。一人一人の税理士さんが勝手に得意分野を公表したら、私らはホンマかいなと思うけれど、税理士会の公表なら信用できるのに、、、何のための税理士会なんかわからんわ、とにかく税理士さんは一度選んだら簡単に替えることができないからなお更アタリハズレが心配になる。腹立ってきたヮ」とお母さんは言いながら、腹いせにケンちゃんのしっぽを踏みつけようとすることを察知したえみちゃんがケンちゃんを後ろに隠して守ります。
これからも体が不自由なえみちゃんの杖となり支えとなって共に生きてゆくケンちゃんのカラダをなでながら、えみちゃんは、伝わってくる犬の臭い、毛並み、呼吸のたびの小さな体からの鼓動に、無垢な生命体としてかけがえのない愛おしさを感じた。
お母さんのムラ気は残るものの、えみちゃんがお父さんの事業所得と自分の雑所得の申告の下準備を行い、税理士さんがチェックしたうえで、国税庁のe-taxソフトで税理士先生が横で見ている安心のもと、えみちゃんが電子申告することになりました。えみちゃんは来年の確定申告時期が来るのが楽しみでなりません。
作業所の往復と手仕事だけで世の中の片隅で生きて行かなくてはならないと思っていた矢先、税理士さんの交代を機会に、不要な会社はなくなっただけでなく、国税庁への税務申告というえみちゃんにとっては大仕事が回ってきました。お母さんもこれからはストレスがなくなりケンちゃんにも少しはやさしくしてくれればよいなーと思いながら、えみちゃんは今日も時間を見つけて電子申告の予習をします。