Try for you

木村栄昌

矛盾と勢い:孫子で打つ手が見えてくる—2500年の智恵を生かす不敗の道—

これまでに掲載した「矛盾と勢い:孫子で打つ手が見えてくる —2500年の智恵を生かす不敗の道—」の記事一覧です。
上のものほど新しい記事となっています。

最近の情勢にあてはまる孫子の教えはどのような点ですか?

原文の順にご案内します。

「兵は詭道なり」「利をもって誘い、乱して取る」<計篇第1>・・
(読み下し文)戦争の本質は敵を欺くことにある。能くすれども能くせざるを示し、用いて用いざるを示し、近くともこれに遠きを示し、遠くともこれに近きを示し、利してこれを誘い、乱してこれを取り、強にしてこれを避け、怒らしめてこれを乱し、卑くしてこれを奢らせ、親しければこれを離す。その備え無きを攻め、その思わざるに出ず。これらは洩れやすいので実行まで部下にも教えてはならない。

原文は漢文で理解が困難です。読み下し文は恩師:武岡淳彦先生の「新釈孫子」(PHP文庫)と樋口 透先生の「孫子問答」(文芸社)によりました。出典は以下同じです。

2,「戦わずして勝つ」<謀攻篇第3>・・
 敵国を傷つけることなく屈服させるのが上策。撃破して屈服させるは上策に劣る。無傷で降伏させるのが上で、戦闘して屈服させるは劣る。ゆえに百戦百勝は善の善なる勝ち方ではない。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる、最高に優れた勝ち方である。

3,「敵を知り己を知れば百戦して危うからず」<謀攻篇第3>・・
 
敵情を知って味方の事情を知って戦えば、百たび戦っても危険がなく、敵を知らず味方の事情を知って戦えば勝ったり負けたりし、敵を知らず己を知らなければ、戦うごとに必ず危うし。

まとめ

1,騙すことがあたりまえ。騙されるほうがおろか。騙すには利益を見せて誘うこと。場合によっては、わざと怒らせたり下手に出てイイ気にさせる

2,敵国に攻め込むは下策。ロシア→ウクライナ、アメリカ→イランの例では?
逆に中国→台湾は戦わずして勝つために認知戦、情報戦のように見えます。

3,交渉事でも相手の背景を詳しく知ることは重要です。試験や病気にも当てはまります。傾向分析を徹底し、必要な知識や専門家の助けを得るのとそうでないのとでは結果は大きく違うのではないでしょうか。

1から3に共通することは用間篇<第13>情報収集、スパイ、偽情報流布の重要さです。

小規模の場合は、集中ほど重要なものはない。<虚実篇第6>

 孫子いわく:我は集まりて一となり、敵は分かれて10となれば味方は一団で動き、敵は10カ所に分散するので味方は10分の一の敵を攻めることになる。味方は大勢で敵は小勢になって弱小であり結局分かれることで敗れる。

 手を広げすぎる場合は、10のエネルギーを分散することと似ています。どんな大組織でも人的、物的資源は無尽蔵ではありません。有限です。思い切って10のうち9を捨て、一つに集中することで小規模でもソコにエネルギーが満たされ湧いてくる状態になります。少し時間がかかりますが、、良い考えも出てきてそれらが相乗効果をもたらします。「湧いてくる」から沸騰するに行くまであきらめずに継続することです。

 一番難しいのは10のうち9を捨てる決断です。情報が多い今どき、この決断に役立つ道を孫子は示してくれています。

では次回に

用間篇第13は日常にも役立つ

 もとは孫子の時代に戦争をする場合の情報の重要さを強調したのが用間を説いた13篇ですが、テンポの速い現代では見方によっては毎日が戦争でもあります。国対国、企業対企業から始まって身の回りに起こる個人のことも結果がはっきり出るものはその裏には「戦争」に似た面が隠れています。

・取引を始める場合
・損害を与えた(与えられた)場合
・仕事上の問題を解決し上司に報告しなければならない場合
・親族間で利害が対立した場合

上記のような場合、共通するのは相手が人または組織であることです。その相手の情報を深く詳しく知ることで問題の所在がハッキリします。思考の焦点が合うのです。

<ポイントの例>

1,先に早く相手の事情を知る。そのためにカネを惜しまない、知ってる人に費用を払って収集する。
2,情報収集していることは誰にも悟られないこと。
3,相手方の人間、特に役職者を動かせて情報を得る、偽情報をばら撒く人間や組織をはじめ相手方と当方の間を往来する人物(二重スパイを泳がせる)は有用。
4,相手方が当方の動きを調べていることが分かった場合、超優遇して転ばせ、味方につける。

<具体例1 報道から>
 日常のニュースを見ていて<ポイントの具体例>が使われているのではないかと思い当たることは多々あります。
 近隣国のなかには認知戦、心理戦を標榜する国々もあり、起こっている現象の背後も読むようにすればニュースの理解が進みます。

<具体例2 隣家から建築工事をするとの通知>
 違法工事が実施される懸念の有無をまず調べなくてはなりません。やったが勝ち、と考える業界の傾向があります。図面などを見させてもらい、自ら土地、建築法規に当たって不審な点がないか確認することから始め、市役所の建築課に問合せることはアタリマエニに必要です。その答えが納得できない場合は上級庁である府や県の建築部門に出向いて確かめましょう。ケースによっては市会議員、府・県会議員に相談することもあり得ますが、私の体験では議員さんは行政サイドへの配慮に傾く場合が見られました。過度にあてにしないことです。

<具体例3 遺産継承の問題で話が進まない>
 まず相続法や相続税の知識を補完しましょう。無知ほど怖いものはありません。向こうは既に専門家に相談してしっかりした知識の上に立って話を組立ているかもしれません。知識レベルで差がついたままではヤラレます。
 相続人同士では利害の対立がありますから相続権のない少し遠い親戚に問題の背景や人物の人となりを教えてもらうことも有効でしょう。案外、過去に言ったことなどが引っかかって原因になっている場合もあります。ソコを知ると知らないでは面談になってからの進み方が違ってきます。先方が弁護士を立ててきた場合は、応じて弁護士さんに依頼したほうが解決に進みますが、できる限り、やりあうことは避けるべきです。孫子は「戦わずして勝つ」を最上といいます。そのためにも情報が大事なのです。

用間篇(第13)の重要さの例

用間篇は孫子の全篇の最後にあります。アンカーの位置ですね。逆に言えば裏から孫子全体をカバーしているとも取れます。

そして重要な点は、
 ・戦争には費用が半端ではない。国民の負担は一日に千金に及ぶ。
 ・遠征になれば運搬費用や軍夫も必要で、国民の家庭生活に影響する。
 ・敵と対陣する時間も費用が掛かる。
 ・戦闘が始まれば勝敗は1日で決まる。
 ・それなのに諜報担当に費用や褒賞、官位で報いることをしないで敵情を
  探ることに注力しない指導者は国民への思いやりに欠ける。
 ・そのような将軍は失格だ!

以上のように「情報」に力を入れない指導者を罵倒しています。

 ここで桶狭間で今川軍の情報をもたらした梁田政綱を一番の功績者にした織田信長は非凡であり情報の有用さを知っていたということです。今川義元に一番槍をつけた毛利新助よりも評価しています。

孫子の重要な点をまず教えてください。

 孫子には有名なキーワードがいくつもあります。これらは大事な要点を簡潔な言葉で表しています。全13篇の要所でその篇の要点を示しています。

・敵を知り己を知れば百戦して危うからず(謀攻篇 第3)

・積水を千尋の谷に落とす(形篇 第4)

・正を以て合い、奇を以て勝つ(勢篇 第5)

・先手必勝(虚実篇 第6)

・専分衆寡(虚実篇 第6)

・風林火山(軍争篇 第7)

・正正の旗 堂堂の陣(軍争篇 第7)

・常山の蛇(九地篇 第10)

・爵禄百金(用間篇 第13)

 これらに先立って現在の世界情勢を視野に入れますと更に13篇の中で力点ともいう篇があります。

 順序として第1篇から始めるよりも、立体的に現在の情勢に当てはめて急所を見るために優先するところから始めたいと思います。

 その急所とは第13篇用間篇です。

 間とはスパイのことです。用間とはスパイの用い方です。情報活動にスパイが必須であると堂堂と記されています。あまりにもあからさまですがここが我が国と文化が違うところです。たしかに現在の世界で情報ほど重要なものはなく、我が国はこの点が弱いと指摘されて何年も経ちました・

 要点は以下です。

1,情報にカネを惜しむな

2,テキより先に知ること

3,スパイの区分と使い方

4,諜報は軍の要

 では次回から原文に沿って解説します。

孫子を生かして成功した歴史上の人物にはどのような人がいますか?

いま思いつくのは下の3人です。

徳川家康、武田信玄、楠木正成

徳川家康:努力家で読書家であったと言われています。蔵書は1万冊ありました。                駿河文庫として残っています。少年の頃、今川家に人質になっていまし                た。子の頃、今川家の軍師であり武将でもあり禅の大家 太源雪斎に孫                子を教わりました。勢篇第5や虚実篇第6を用いた作戦があります。

武田信玄:風林火山の旗印で有名です。この言葉は軍争篇第7にあります。疾きこ                と風の如し、しずかなること林の如し、侵略すること火の如し、動かざ               ること山 の如しです。続いて同篇では知り難きこと陰の如く、動くこと              雷震の如しが続きます。四如でなく六如です。旗印として作戦に用いま                したが病 気で野望を達成することなく上洛の途中、信州駒ん場でなくな              りました・

楠木正成:幼少時に河内長野の大江時親(12代 大江広元の3代のち)に孫子を                   習うため通ったと伝えられています。詐術を基本にする                                  孫子と国柄が異なる日本向けに孫子の補助教科書として闘戦経として編               纂されたものを教わりました。


 次回からは歴史はココでひとまず置き、孫子の具体的な内容に入ります。先ほどの闘戦経にも触れます。

いまなぜ孫子なのですか、2500年も前の書籍がなぜ役に立つのでしょうか?

良い質問です。

2500年も昔のものですから賞味期限切れではないか、とのお考えは尤もです。

 しかし見方を変えれば2500年も読み継がれてきたということはそれだけ役に立つ内容と考えられます。

 米国の大学教科書売場に行きますと「The Art of War」との名前で原典を英語で書いた書籍が山積です。解説書も結構あります。米国の退役軍人でビジネスマンになった人が書かれた本など有名です。

 外交や経済で米国や中国とのやり取りで新聞などで指摘されるのは日本の「戦略性のなさ」です。表面だけしか見ていないのではないかと思うことは多々あります。

 経営の面でもM&Aなどが多くなる今どき、戦略の欠如は命取りになりかねません。

今後は要点を解説してゆきます。