冬の時代を笑いで乗切るために<短編物語>読むだけで税や会計の 生きた知識が不思議に身に付く
<短編物語>サスペンデッドセンテンス その11(最終回)
2030年 パリの運河沿いから
その後、泰彦の奮闘もありビジネスは日本からヨーロッパ、中東、東南アジアをに及ぶまでに拡大した。オフィスは以前のままのSt Michelであるが、住居をパリ郊外に定めメトロで通勤している。地道な生活である。
資金をユーロ以外にスイスフラン(CHF)にもプールしたことが幸いし、為替の変動にもかかわらずスイスフランは堅調に推移し彼のビジネス資金の貯蔵庫になってくれている。税や会計に関しては貿易業務に詳しいフランス人税理士<エクスペル コンターブレ(expert comptable)>が 複雑な付加価値税(Taux de TVA)も含めてサポートしてくれている。
円安は変わらず物価高のうえに犯罪も多く母国は急速に魅力のない後進国の様相を呈してきた。政治の不安定が続くだけではなくデータのセキュリテイが弱くハッカーの稼ぎ場になっていた。ランサムウエアからデータを守ることができずに操業が不安定になる巨大企業が続出し、ネットワークセキュリテイ強化のため「危機管理庁」が構想されても、現場に疎く実務経験がない議員や高級官僚の手では実現されないまま時間だけが断って行く。
諸外国とのセキュリテイ連絡間会議に要員を派遣していないのは先進国では日本だけという状態である(参考:小川和久著「国防も安全も穴だらけ!国民を守れない国・ニッポン」(扶桑社)54~55頁)。
日本から主要国の企業が見切りをつけて撤退してゆく。外敵に侵入されて苦汁をのまされた歴史がないため、すべては手ぬるく法整備も整わず、危機意識が希薄で、犯人の人権をも配慮するから処分は甘い。その上、日本の組織の特徴である隠ぺい体質は問題の発見を遅らせ、ハッカーやテロリストの活躍を許すだけである。
買い付けのため訪れるたび劣化してゆく母国をまのあたりにすることで辛い滞在の日々であったが、京都、今出川七本松や東京、無縁坂の仕入先は巨大企業でないが若い世代の経営者やスタッフが勢いのある活気をもたらしている。
小規模事業や店舗には自分の腕に自信を持つ気後れしない若い専門家や職人が働いている姿を見て泰彦は、旧態依然の役所やマスメデイアが報じる上辺の報道の底に捨てがたい種火が残っているのをしっかりとらえていた。
パリ下町の運河沿いのカフェでそんなことを思いながら自分はやはり日本人だナと泰彦は思った。
<完>