冬の時代を笑いで乗切るために<短編物語>読むだけで税や会計の 生きた知識が不思議に身に付く
<短編物語>第9話 資金城盛衰記 その7
(これまでのあらすじ)
泰平家具製造販売(株)のオーナー社長 泰平(73歳)は家具職人から身を起こし昭和の好景気に乗って受注生産の家具がよく売れたこともあり多額の資金蓄積ができた。その後、銀行系のコンサルタントの提案を受け、見込生産に切り替えた。しばらくは売上規模も大きくなったがコンサルタントが勧めた銀行借入による過大設備投資が原因で見込生産量が増えすぎて、在庫が残り始めた。そんなころ泰平の息子が入社した。仕事に熱意がなく浪費家で上辺の人付き合いは良いが「利益」を獲得する力量はなかった。仕事センムというあだ名がついた。センムが結婚した女性は見栄の権化で子供はエスカレーター学院に通わせる。夫婦で「仮払金」名目で会社の資金が引き出され減ってゆく一方であり、その上、飲みすぎと美食で二人とも病気になった。泰平はセンム夫妻に会社を食い潰されてゆくような気持であった。
泰平には甥が一人いた。勉強家であったが最近亡くなった母(泰平の妹)の看病で就職試験を受ける機会を逸していた。泰平は何かと相談を派遣社員で総務経理を担当している地見行男にするようになっていた。
センムの死去
センムは心臓を患っていたため時々心不全の症状が出ていても酒好きタバコ好きは治らず肝硬変も進行していた。ある日、膵液が膵臓に逆流して膵臓壊死であっけなく亡くなった。生命保険の入金があったが、その入金額を持って妻の見栄子と娘は家を出て行った。急に入った保険金を見て、後先の判断もできない衝動的な本性が現れたようであった。感情だけで生きて、勘定を機に縁が切れた。その見栄子も乳腺外科に通う身でありながら贅沢がやめられず、眼底検査の結果、糖尿病性網膜症という眼病を併発していることが分かった。血糖値も高く硝子体手術が必要との診断であったが、治療より目先のカネを手にして浮かれてしまったようであった。目先のことしか考えない、考えられない戦後80年が生んだ消えてゆくべき人々が消えてゆく時代が来た、とカンの鋭い泰平はそのとき気づいたのだった。本音と建前を使い分けるのだけ上手で、地を這うような努力もしないで、常に楽な道を行く、他人の目を過剰に意識して見栄だけの浪費人種が退場してゆく入れ替わりの時代なのだと思った。その思いは地見も同じであったようである。
地見の提案・・顧問税理士の変更
「社長、宜しいですか、この機会に折り入って提案させていただきたいことがあります。」地見は続けて言う。「税理士さんを他のかたに替えていただけませんでしょうか。私はハケンの身なので抑えていましたが、あの先生はあれだけの金額が仮払金として出てゆくのに問題にもしない、決算の時も繰越された残高の内容を分析して改善案の一つでも出してもくれませんでした。私が昔勤務していた会社の税理士さんは仮払金勘定は決算残高に残してはならない、未決算勘定を残すことは公正妥当な会計ではないと厳しい態度でした。それが当たり前だと思います。それと私一人が資金の保管、支払決済、記帳と全て行うので、この会社には内部牽制が効いていないという危険があるのに気づかないのか、不勉強で無知なのかわかりませんが、とにかく今の先生はひどすぎます。」
「そうですか、よく言ってくれました。私はこの際、秀夫に入社してもらおうと思っています。なので、この機会に秀夫と近い年代の税理士さんを探そうと思います。そうしましょう。」
泰平は早速、秀夫に会いに行った。一方、地見は新しい税理士を探すことになった。
しかし実際に税理士の広告やインターネット情報を調べても盛られた内容に見えて判断ができなかった。以前の職場で税理士資格取得の入り口がおおむね3種あること、地見も一度は受けようと思って歯が立たなかった税理士試験に5科目合格して新規登録した税理士は令和6年25.37%*ⅰ、令和7年20.71%*ⅱで、近々20%を下回るのは確実であること、令和7年度の全税理士に占める試験合格者の割合は41.70%*ⅱにとどまると聞いたことがある。新規登録者のうち試験合格した者が五分の一を下回ろうとしていることが示すように絶滅危惧種であるうえ、秀夫の世代に近い税理士を探すことは更に困難なのが実情であった。
*ⅰ 日本税理士会連合会「税理士界」1448号 登録事務事績(6)頁
*ⅱ 日本税理士会連合会「税理士界」1460号 登録事務事績(7)頁
地見は試験に合格した税理士を探す手がかりとして地域の税理士会に問い合わせてみたが、どのようなルートで資格を取得したかは明らかにできません、との回答であった。他の資格のように統一試験で資格を取る制度ではなく多岐にわたる流入路から入ってきて同じ「税理士」を名乗るなら流入路ごとの詳細も示すのが筋道ではないか、これでは納税者サイドでは最適の税理士を探そうとしても不便極まりないと粘ったが係員の返事は変わらなかった。
地見は卒業した夜間大学の友人たちの中で税理士や経理マンをしている複数の男たちに、誰か若手がいないかを聞いて回ったところ、しばらくして該当者が見つかった。
友人によれば、その人物は税理士試験を(5科目合格で資格付与のところ)6科目も合格しているらしい。会計系統2科目と所得税、法人税、相続税に加えて実務で困るからと、さらに消費税法も受験して合格しているとのことであった。
早速、地見は泰平に報告した。