冬の時代を笑いで乗切るために<短編物語>読むだけで税や会計の 生きた知識が不思議に身に付く
<短編物語>第9話 資金城盛衰記 その8
秀夫が泰平に話したこと
地見の友人が紹介してくれた新しい税理士のことを泰平に報告した。泰平は報告を聞いて「宜しいでしょう。経理や総務のことが分かっておられる地見さんがこの話を詰めてください。素人の私が的外れなことを話しても却って齟齬が出てはいけない。このような話の運びは初めに躓いたら後々たたる。よろしゅうお願いします。」
その後、泰平は次のような条件を付けた。
「まず、よくこれからも勉強を続けるお人かどうかを見てください。若いうちにある程度の成功体験をした人は、その後、勉強を続けない人が案外多いようです。次に、人を上から見下すお方はウチのような零細企業には合わないように思う。あなたなら私の言う意味は分かってもらえると思うけれど、表面は腰が低いようでも何かのはずみにその人物の隠れた部分が出る。上辺ではなく芯の性格を見てくださいな。上辺の要領だけが良い人は困ります。最近の日本は世相がすさんでいます。嘘をついたり、人をだますなど、悪いことを平気でする人々の世の中になってしまいました。そのくせ権威には弱く、理性的な批判精神に欠け、トクになるように要領よく立ち回る人が多すぎます。その挙句が面従腹背です。国全体が百貨店の特売場のようにトクしてエエめしようとしのぎを削っていますが、そんな文化をウチの会社に持ってこられたくないのです。そんな人に我社に関わってもらったら困るのです。これだけです。」
地見は泰平の言うことが良く分かった。センム夫婦を野放しにしておいた深い後悔があるのだろう。いろいろな入り口がある中で、困難な税理士試験を正面から突破する姿勢からは泰平の望む条件に合っているように地見には思われた。「社長、分かりました。注意深く観察します。」と返答した。
次いで泰平が秀夫との話を地見に伝える。
「いやはや上昇志向と負けん気の塊みたいな人物でした。自分が勉強したことを生かしたい。生かすためには生かす環境整備から任せてほしい、と言います。勉強したことを生かせないなら自分の存在意義はない。あの子の条件はそれ一つでした。私はその姿勢から何か新しいものが生まれてくるような気がして即、同意しました。部屋に機械工学の本がたくさんあって何語か分からないけれど外国語の教科書もありました。辞書は英英辞典しか使わないようで理由を聞いたら、日本の学者が翻訳したモノは誤訳が多いから外国語の原典で勉強する。その時に日本語を介すると余計にわかりにくいらしいです。話の流れで我社に備わる機械類の話になって、いろいろの機械が今は生産が上がらないから休んでいると話したら、それらの機械は私が治します。治していくつかのアタッチメントを付けたら自動化できると言います。それを聞いて私は心底から嬉しくなりました。先に希望が見えた気がしてきたのです。」
泰平と地見が一致した考え
こうなれば一日も早く秀夫に働き始めて欲しい。一から家具製造のことを身に付けて行って欲しい。
新しい税理士に来社してもらって会社の概況を話して、契約できるか断られるか秀夫を交えた場で意見交換することで結果を出したい。二人はこのように合意した。
地見は早速、税理士を交えた話し合いの場を設定する。その時に先方にはあからさまに会社の決算数字も開示して意見のアウトラインを聞くのが良いと考えた。
仮払金が残ったままの見てくれの悪い決算書であるが、却ってそれでよかったと地見は思った。その結果は
1,この会社に関与することは、お断りします:と言われるか
2,詳細をさらに調べたいので過去資料を拝見出来ますか:かいずれかだ。
そのことを泰平に話すと「そればよい考えです。その税理士さんのことが更に分かりますね。断られたら、その時はそのときです。」いつもの泰平らしい答えが返ってきた。
地見はそんな泰平のこだわりのなさが好きであった。