冬の時代を笑いで乗切るために<短編物語>読むだけで税や会計の 生きた知識が不思議に身に付く
<短編物語>第9話 資金城盛衰記 その11(最終回)
資金城の復活
これまで資金城には以前の隆盛はなく、奥曲輪に資金が残るだけ(その6)で低空飛行を続けてきた。センムの死後、センムの妻も去り、浪費する人物がいなくなったこともあって大きな収益こそ得られなかったが「非常用、緊急用資金貯蔵庫」である奥曲輪に残った資金は減少することなく泰平家具製造の命綱であり続けた。
秀夫が入社し、新しい技術で試行を始めるとともに、入れ替えた税理士の方針が資金繰りに生かされてきた効果も大きい。
税理士はCASH CYCLEにこだわる。以前、銀行が勧めたような見込生産は廃止し、以下のような仕組みを秀夫に提案した。
・高付加価値 ・20%前金+受注生産 ・引渡し時、現金払い
・材料等仕入れの支払いは月末締め、翌月末支払い
この結果、売掛金の回転日数(売掛金勘定残高×計算期間の日数÷計算期間の売上高)は買掛金の回転日数(買掛金勘定残高×計算期間の日数÷計算期間の仕入高)を大きく下回り、入金の速度が出金速度の4倍速くなる。常に資金が手許にある状態であるばかりか、付加価値率が高いので利益も相当上がる。勘定足って銭足らず、ではなく勘定も合い、資金もそれ以上に溜まる仕組みである。
秀夫は大賛成し、泰平と地見の前でその構想を説明した。泰平らは安売り且つ薄口銭の今の時代に世間に受け入れられるか心配したが、結局、「やってみなはれ」の一言で実行が決まった。
復活を支えるコンセプト
大量生産、大量消費でモノを使い捨てにする時代に逆行して「あなただけの家具、何代も使える家具」を基本コンセプトにして受注に際して何回も何回もカウンセリングの時間を設けた。
その狙いは客が「本当の自分が、心のずーっと奥でどんな家具と生きてゆきたいか、その家具(どこにでもない)から語り掛けてくれるような、波長が届く家具」を制作することを大々的に打ち出した。
そのために秀夫は高専時代の先輩で渡仏してプロダクトデザインを学んできた人物に相談している。
このような準備が地域のミニコミ誌に掲載されてから徐々に来社する将来顧客が増えてきた。ポイントは、売らんかなとの姿勢がなく、秀夫と話しているだけで自分が何を求めていたのかが「自己発見」できる点であった。
行き詰まった資本主義末期社会のさなか、スキがあればウソ、偽り、なんでもありで売ろうとする同業者に囲まれ、マスメデイアに影響され、悪い教育を受けてきた年若い顧客層が秀夫のユニークな斬新さに共鳴した結果であった。
税理士は奥曲輪に残った資金を温存することなく「勝負」のために底をつくまで使い切ることを強く勧めた。「残りの資金があれば思い切りが悪くなります。退路はない、と腹を据えてください。」と秀夫を鼓舞した。しおれた野菜のような前の税理士とは全く違う。泰平も地見も、自分たちも馳せ場を駆ける戦士として参加したくなるパワーが会社から伝わってくる。
特に泰平は妻を早くに亡くし、最近、息子も亡くし、孫も行方知れずの身の上である。株式も全株を秀夫に贈与した。もはや失うものはない。これからは身を粉にして秀夫を応援したいと思っている。
そんな日が過ぎたある暑い夏の昼下がり、若夫婦が注文書にサインし2割の前金を現金で支払ってくれた。身なりから見ても流行を追わず地道で堅実な生活ぶりが見て取れた。
数日後、その友達という、引越しを予定している男性が来店し小一時間秀夫と話した後、新居用の家具一式を発注してくれた。類は友を呼ぶの例えのように派手な安売り宣伝を一切しない姿勢が風評に惑わされない層の人々を呼び込んできた。マスコミに踊らされる層とは別の人たちである。
デザインのチカラ
資金が潤沢になり奥曲輪の非常用、緊急用貯蔵額を超えて溜まってきた。たちまち張出出丸の余裕資金も充分になり、余裕で金蔵出丸のストックができるようになった。
プロダクトデザイナーが考案した家具の収納箱や小物の包装紙のパッケージデザインが好評で、包装紙を求めるために小物を買う客も出てきた。デザインがブランドを創ることが実証された。この結果、高級志向の顧客が遠方からも来店しだした。
秀夫はプロダクトデザイナーに、インテリアデザイナーの紹介を依頼した。二人のデザイナーとの話し合いで第一に家具の入れ物である空間を整え、ソコに合う家具の配置や配色などをカウンセリングしてから受注すれば家具の置かれる空間がその顧客にとって唯一最高の私的空間になる。家具に焦点を当てるのではなく、入れ物としての空間から家具を選ぶことで「唯一の空間」を創造してゆく。まさに受注生産のエッセンスである。
このような専門性を持った人たちの水平的結合は、これまでの元請け下請け親分子分の縦の支配、資本の論理とは全く別の経営運動体である。新しい動きが芽生えようとしていた。
<完>
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